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腕の中で息絶えた。綺麗な漆黒の髪も、キラキラとした瞳ももうここにはない。
首筋に短刀を押し付け、一息に、と思ったところで、イヴァンの首に光る首飾りを見つけた。代々受け継がれるその首飾りは、先代が亡くなったときにイヴァンが受け継いだ物だった。
イヴァンは成人する前に両親を亡くし、まだ王家と繋がりのある者以外には顔を知られていない。他国にもそれは同然だった。
死に選んだこの場所はイヴァンの両親が眠っている地下室だ。火事の火が消えようとも、イヴァンの亡骸が見つかるまでは戦は終わらない。
「次の世は、貴方が素直に泣ける世であることを願います」
イヴァンを下ろし、手を組み合わせる。
生きている間に触れることのできなかった頬を一撫でし、イヴァンの首から首飾りを取り、自身の首につける。赤い真紅の宝石がついた首飾りは、自身が付けると霞んだ色に見える。
「イヴァン様」
返事はもうない。
自身も怪我ひとつ負っていない訳ではない。死ぬ訳には行かない、と致命傷こそは免れたもの受けた傷はそれなりにある。
踵を返し、イヴァンに背中を向けて歩き出す。
「せめて安らかに」
後ろ手で静かに扉を閉めて、階段を上がっていく。
生きて欲しい、など言えなかった。
自身に科せられた罰を全うしようとしている彼には。もう少し気付くのが早ければ、戦になる前に止めれたかもしれない。イヴァンはよくその言葉を口にしていたが、それは自分自身にも言えることだった。
もう少し早く気付けば、彼を助けれた。彼と共にまた明日を迎え、明後日を迎え、来年を迎えれたかもしれない。
そんなことを何度思っただろうか。
「敵兵発見!!!!」
階段を上がり城の外へと歩みを進めていると、背中から声がかかり、どすん、と身体に衝撃が当たる。
声を上げようとするが、息が吸えず空気が漏れるような音だけが口から出る。
「首元に印あり!!」
前に回った敵兵が声を上げる。
背中からずる、と刀が抜かれた。立っていることも出来ず、膝から崩れ落ちてそのまま顔から床に倒れ込んでしまう。
敵兵はうつ伏せで隠れていた首飾りを引っ張りだし、それを確認すると、集まってきた兵と話をしている。
もう意識も遠のいていき、何を話しているかも聞こえない。
ああ、イヴァン様安らかに。願わくば、次の世であなたの涙を拭うのは私でありますように。
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