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 意識がすこし変わったのは中学2年の頃だった。  2年になり、進路を決めて、少し大きめの制服がピッタリになってきたころ。 「え、彼女?」  壮の自室。上着を脱ぎ、ワイシャツの姿で壮は昼に買っていたペットボトルのお茶を飲んでいる。小学校から持ち上がりで中学になり、成績優秀だった壮は中学になっても変わらず、運動が苦手だったのも嘘じゃないかと思うくらい文武両道になっていた。 「うん、告白されて、卒業まででいいからって」  壮の部屋でベットを背もたれに床に腰掛けている時だった、壮からそんな話をされた。 「え、あ、相手だれ?」  想像のしてなかった発言に戸惑いながら問うと、壮は隣のクラスの大人しい女の子の名前を言った。派手ではないものの、大人しく可愛らしい女の子だった。 「付き合うの?壮はその子のこと好きなの?」  今まで特に会話でその子の話題が出たこともないのに、いつの間にそこまでの仲に?  ぐるぐると聞きたいことはあるが、ちゃんと口から発されたのは一番聞きたい言葉だった。 「好きか聞かれるとわからないけど、好きになれそうな人だとは思うよ」  どこが、なんで?俺は?なんて口から出そうになるのを必死で堪える。問い詰めるのは間違えてる。壮は男で、当たり前に考えたら女の子を彼女にする、それくらいわかってたことじゃないか。前の俺が望んだ関係、隣で笑い合え、辛い時には隣で支える。たまに馬鹿やって、しょうもないことで笑い合う。全部叶えられている。それなのに現状に満足できないのか? 「お前は親友だからさ、言っとかないとと思って」  少しだけ顔を赤らめながら壮は言った。そしてその赤らめた顔を隠すように伊織に背を向け、ワイシャツを脱いでいく。ワイシャツの下はタンクトップで自分よりずっと白い腕と服越しでも分かる細い腰。  かちゃかちゃとベルトを外す音が聞こえて、何だかじっと見ているのも、とすこしだけ視線を外す。  これから壮はあの大人しそうな女の子と手を繋いで、キスをして、セックスもするのだろう。あんな細い腕で女の子を抱き上げれるのだろうか、性に対して興味ないです、なんて顔している2人だけど、セックスの時は……。  脳内にぽわん、と映像が映し出される。それは彼女と壮の行為ではなく、壮がベットでシーツを身体に巻きつけている図だった。形のいい二重の瞳をうるうるさせ、ベットそばに居る誰かを見つめている。明らかな情事後のそれは抱いた側というよりは、抱かれた側の壮だった。 「お、俺、帰るわ!!!」  床に置いていた鞄を持ち、上手く股間を隠しながら部屋を後にする。でる寸前にチラリと見えたタンクトップに下着姿の壮が目に焼き付き、ぴくり、とまた反応を示してしまう。 「おじゃましました!!!」  普段はリビングに顔を出してから帰るが、今日は出すことをやめ、急いで靴を履き外にでる。  文武両道とは言っても運動部に属してる訳でも、炎天下の中外で運動するタイプでもない壮の身体は白く、細かった。  壮の家を飛び出して、近くにある遊具の少ない公園のベンチに腰掛ける。思い出すのは白い体と想像の中でシーツに包まっていた壮の姿。考える度にぴくん、と反応を示してしまう。  はあ、とため息をついて、空を見上げる。  この世界に生まれ、気づいた時には壮が隣にいて、このままずっと一緒だと思っていたが、現実問題男同士で永遠を、と思っても簡単にいくものではなかった。根本的に2人の同意もいるし、同意があったところで周りの目はまだ冷ややかなのが現実だ。  肌寒い風が学ランの隙間を縫って身体に当たる。ひんやりとした風のおかげで、熱を持ち出していた体が冷えてきた。  壮が好きだ。イヴァンのように、近くで見守るなんて、到底できそうにない。  でもまだダメ。自分の力で稼げるようになって、壮を幸せにできるまでは、感情に任せて動かないように。そう自分に言い聞かせる。  女が好きでも、女と付き合ってても、いずれは自分が掻っ攫う。最後の最後にはやっぱり伊織が一番だ、と言われる日が訪れると、信じている。  何百年も待ったんだ。壮と出会える日を、壮と共に歩める人生を。こんな事で諦められるほど単純な気持ちじゃない。 「がんばろ……」  小さく拳を握る。  寒さが身を刺し始めたのを感じて、公園を後にした。  

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