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06
春を超え、夏休み。バイトに明け暮れながら時々遊びに行き、壮の家には週に一回。そんな中自分の中で余裕が無くなってきていることを自覚していた。
イヴァンが亡くなった歳を壮が超えそうになっている。ただその事実だけが何故か心を揺さぶっていた。壮が死ぬわけないのに、イヴァンと壮が重なって仕方ない。
「はあ……」
もう何度目になるかわからないため息が溢れる。
最近よく夢で見るのは、イヴァンの最期の瞬間。力が抜け、腕の中で呼吸が止まる瞬間だった。
イヴァンと壮はよく似ている。外見は瓜二つで、根底にある優しい性格も変わっていない。普段の性格は成長するにつれ全く違う性格でそれが2人を別の人間だと再認識させる。
イヴァンが伊織と再会したとき、イヴァンの側には彼の心を奪った男が倒れていた。既に虫の息で意識もあるかどうかわからない状態だった。その男が握りしめていたイヴァンの右手薬指には男がつけたのか歯形がくっきりと刻まれていて、それを継いだのか壮の薬指にも青いアザがくっきりと残っている。忌々しいあの男の痣が。
もう名前も思い出せないその男も壮を追いかけてこの世に生まれているのだろうか。
その男が現れたとき、壮は今までの自分のことなんて忘れてその男の元へ行くのではないか。
そんなことが頭の中でぐるぐる回る。
「あれ、伊織くん??」
明るい声がかかる。
声のした方へ顔を向けると、壮の母親が両手いっぱいにスーパーの袋を持っていた。
「いまからウチに来るところだったのかしら」
朝イチでのコンビニのバイトを終えて、歩いて自宅へ向かっていたところだった。暑くてぼーっとしながら歩いていた。
「いまバイト終わって、一回家帰ってから行くつもりだった!」
笑顔を顔に貼りつけそういうと、壮の母親はあらまーと少し残念な顔をした。
「今日あの子学校行かなきゃダメな日みたいで。何でも生徒会の仕事があるって」
両手いっぱいのスーパーの袋を手を伸ばし取ると、壮とよく似た笑顔を浮かべた。
「あー、そうなんだ……」
予定がなくなったなーと思っていると、ぽんぽん、と腕を叩かれる。
「あの子の事起こしてくれない?夏休みだからってまだ寝てるの。伊織くんが起こすとすぐ起きるのよ、あの子」
ふふふ、と笑う壮の母親。
「任せて、俺なら一発だから」
そう言い、行き先は壮の家へ。
何できたの、とすこし不機嫌な壮の寝起きを想像する。数日前にカバンに突っ込んで放置していた夏休みの宿題を使わせてもらおう。中身は数日前に終わっていて、あとは見直すだけの宿題。
あの男が生まれ変わってたとして、簡単に解けることのない関係を築いてきたつもりだ。
出会わないことを願うばかりだが、出会ってしまっても大丈夫、心の中でそう唱えて、歩き出した。
今日は夏の暑い日。夏休み最終日だった。
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