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「ちゃんと約束したら、壮は守ってくれるでしょ」
これは賭けに近かった。
昼食を一緒に食べる事がそこまで重要なわけではない。でも黒澤より優先されてる、と信じたかった。学園祭の中、壮が自分との約束を思い出してこちらにきてくれるのか。
来てくれた時、この抑えきれなくなってきた気持ちを伝えてもいいんじゃないか。なんて思い始めてしまっている。
そんな事思うだけでどうせ伝えることなんてできないのに。
「守るよ、ちゃんと」
壮の返事はすぐに返ってきて少しだけホッとする。大丈夫、きっと壮は守ってくれる。忙しい中にも俺を思い出してくれるはず。
絡まった小指にさえ、心が締め付けられる。
純粋に慕っていたあの頃の気持ちはもうない。明日も明後日も、来年も、共に、何て思えない。
ずっと一生、笑顔も泣き顔もすべての表情を見て生きていきたいと思う。笑顔を与えるのも、涙を拭うのも、震える肩を抱きしめるのも自分以外の人間がするだなんて考えたくもない。
「壮……」
歩き出した壮の後ろ姿を目に焼き付ける。
きっと大丈夫、壮は俺を選んでくれる。
「伊織くん、迷惑かけちゃうわね」
そう言ったのは壮の母親。
学園祭前日に熱を出した壮。高熱で歩くのもままならなかったらしく、その日は学校を休んでいた。
でも、学園祭当日。嫌な予感がして登校前に壮の家に立ち寄ると、壮の母親が困った顔をしてもう登校したのよ、と言った。
「ううん、大丈夫」
少しだけ口角を上げてそう言うと、壮の母親も少しだけ笑顔を見せる。
「よかったわ、2人共ちゃんと仲直りできたのね」
壮の母親がそう言い、この家に来るのはあの裏門で壮を怒った時以来だと思い出す。
「あ、あのときは……」
すみませんでした、と謝ろうとするが、いいのよ、と止められた。
壮の母親を見ると目尻を下げて優しい笑顔を浮かべる。壮とよく似た笑顔だ。
「これからもあの子の事お願いね。あの子伊織くんが居なくちゃダメみたいだから」
「……うん、任せて」
今度こそはすべてをかけて。
自分の心の中でだけそう続ける。
離れてって言ったって、もう離れられそうもない。
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