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「はぁ?マジかよ」
思わず少し大きな声が出た。
生徒会室を後にして体育館裏に集まったら、そこには足に湿布を貼って地面に座っている白雪姫役のクラスメイトがいた。
「仕方ないじゃん!階段でぶつかられたんだから!これだけで済んだのが奇跡だよ!」
眉を顰めてそう言うクラスメイト。
劇に出れないのは自分のせいじゃない、とイライラしているのが伝わってくる。
確かに重傷じゃないだけまだマシ、だが……。
「どうするよ、白雪姫役」
本人が軽傷だってわかったら、みんな気にする所は一緒みたいで、ぽつりと誰かが呟いた。台詞はワイヤレスのイヤホンで伝える事ができる。
問題は白雪姫のドレスが女性用の通販で購入したサイズだと言う事。
「あんなん入るやついるのかよ」
元々の白雪姫役の奴が細身で身長も低いこともあり、こうなる事を一切考えずに購入してしまっていた。あのサイズが合いそうな人物は体育館裏に集まってる中にはいない。
「あ、冴島ならいけるんじゃね?」
集まった中の誰かがそう言う。
その言葉にそうだな、あいつなら入りそう、など肯定の言葉が溢れる。身長は高く、ドレスが半端な丈になりそうだが、細身な壮なら背中のファスナーは上がりそうだ。
俺が電話してみるわ、と携帯を取り出したクラスメイト。脳内に蘇るのは、しんどそうに瞳を閉じている壮の姿。
「待った!!!」
クラスメイトの携帯に手を掛けて操作するのを妨げる。
きっと頼めば来てくれる。壮はそんな男だ。
でも、高熱の中学校に来ている壮に無理をさせるなんて出来なかった。
「俺、アテがあるから!そいつに頼んでみるわ!」
角が立たないように、笑顔を浮かべてそう言う。日頃からクラスメイトから交流していたおかげか、おー、じゃあ頼むわ、と言われて肩をぽんっとたたかれる。
細身で身長が低い男。心当たりがひとりだけあるのは事実だが……。
伊織は小さくため息をついた。
「で、なんで僕なの。第一クラスも違うし」
少し苛立ったようにそう言う加賀に、両手を合わせて頭を下げる。
「お前を友達だと見込んで!!」
はぁ、とため息が聞こえてくる。
頭を上げてちらりと加賀を見ると、眉を歪めており、見たこともない表情をしていた。
「僕も生徒会の1人なんだよ、忙しいの」
「でもお前がオッケーしてくれないと、壮に頼むしかないんだよ」
頭を下げて、たのむ!と声を出す。
いま居るのは更衣室として使われてる教室のひとつで、今は伊織と加賀しかいなかった。
机の上には白雪姫のドレスと安物のウイッグが置かれている。
「お前しかいないんだよ」
加賀を上目遣いで見て、お願い、とポーズをひとつ。
すこしの沈黙の後深いため息が聞こえた。そしてシュル、とネクタイの解ける音。
「劇の後、こっちの仕事も手伝ってよ」
むすっとした顔のまま加賀はネクタイを解いて、シャツのボタンに手をかける。
「なに、じっと見て」
「……お前いい奴だな」
加賀の優しさに顔が緩む。
きっと伊織の為ではなく、壮の為なんだろうけど、その優しさが今はありがたい。
「ドレスの背中のチャックあげてやろーか?」
ご機嫌取りにそう言ってみるが、加賀からは冷ややかな視線を返される。
「着れなかったら呼ぶから。外で待ってて」
壮がいる時には出したこともないような冷たい声で加賀は言った。
本性が出てきたな、なんて思いながら教室を後にする。
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