44 / 47

16

 唇を噛んで、走りだした。  もし壮が黒澤を選んだとしても、この気持ちを伝えることくらいはしたい。前世に芽吹き、小さい頃から育ってきたこの気持ちを。  そんな目で見てたのか、と嫌がれるかもしれない、お前は親友でそれ以上にはなれない、と誠実に断られる可能性だってある。  でも、もう悔いを残して生きていきたくなかった。    階段を駆け上がり、すれ違う人には迷惑げな目で見られるが気にしていられない。  生徒会室のある階に着くと、そこだけがしーんとしていた。焦っていた気持ちを落ち着かせるように早歩きで生徒会室へ向かう。 「それでも駄目?」  黒澤の声が聞こえた。やっぱり見間違いじゃなかった。  生徒会室の扉に手をかけ開けようとする。  その時、壮の声が聞こえてきて、思わず止まってしまった。  昔のこと、すこしだけ思い出したんです。  壮はそう話しだした。この傷のことも、と。  傷?何のこと?まさか……。  悪いとは思いつつ、扉を開けるのをやめて、壁に耳を近づけて聞き耳を立てる。 「昔の俺は確かに貴方が好きだったんだと思います。」  壮の声がはっきりと聞こえる。  昔の俺、というのはイヴァンの事?……まさか思い出してしまったのか……?  胸がぎゅっと握られたように苦しくなる。  聞きたくない、と身体が聞くのを拒否しているのか、心臓がドンドンと体の中から叩いてくる。  両手で耳を塞ぐ。このまま走り去りたい気持ちもあるが、足が動かない。  ほら、やっぱり来なければよかった。イヴァンもそうだし、壮もあいつを選ぶんだ。どれだけ思っても、最後はあいつに掻っ攫われるんだ。そんなネガティブな考えが脳内を支配する。  もう最後なら、この思いの丈を伝えて終わらせよう。こんなに辛い思いも、今日で終わりにさせたい。  ガラガラとタイミング良く扉が開いた。  出てきたのは壮よりずっと身長の高い男で、メガネをかけた黒澤だった。  出てきてすぐ目があったが、上から下までじっと見たあと踵を返し、廊下を歩いていく。  黒澤が出て行った。言うなら今しかない。  生徒会室の扉のすぐ横の壁にもたれていると、足の力が抜けて、その場に座り込んでしまう。  今日で関係が変わる。もう明日からはおはよう、すら言えない関係になるかも知らない。十数年当たり前にしてたことが、全部できなくなるかも知れない。そう思うと辛くて、涙が出そうになる。 「なにしてるの」  頭上から声がかかる。誰かなんてすぐにわかる。  顔を上げて声のした方を見ると、キラキラした瞳とぶつかった。 「俺ね……ほんとは……」  声が震えた。でも伝えるって決めたから。  

ともだちにシェアしよう!