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17 END
「壮が俺の主で、国の長だった」
そういうと、壮はやっぱりな、と言うような顔をしていた。本当に全部思い出したのだろうか。
「俺は小さい頃から覚えてた。全部。だから俺が守るのが当たり前だったんだよ」
傷付かないように、幸せになれるように、と前世の報いを壮が受けないように、と近くで守ってきた。なるべく笑顔で過ごせるようにと。
「でも、過ごしていく内に今の壮と昔の壮が違うってことに気づいたんだ。昔は諦めが早くて、自分が辛くても押し殺して笑ってるようで泣いてる壮だったけど、今の壮は違う。頑固だし、全然言うこと聞かないし」
イヴァンとの思い出より、壮との今が大事だと思ったのはいつからだっただろう。
壮の笑顔の中にイヴァンを探さなくなったのは、いつからだろうか。
壮の事を考えると心がざわざわして落ち着かない。泣きたい程、積もり積もった感情がある。
「壮、好きだよ。ずっとずっと好きだったんだ」
小学生の時も、中学になってからも、高校でも、心の中にいるのは壮だ。
抑えてた感情と共に涙も溢れてくる。
「いつも迷惑かけてごめん。ずっとお前が守ってくれてたんだな」
壮が静かに話しだした。
ずっと俺が守ってた。でも俺もきっと壮に助けられて、生きてきた。だからごめん、だなんて謝らなくていいんだよ。
心の中でそう返事をする。
伊織の世界は壮が中心だった。幸せな時も、楽しい時も壮が居たから。辛い時もしんどい時も壮がいたから耐えられた。
壮がいなくなったら何を心の支えにしようか。
「今度は一緒に長生きしてくれるか」
静かな廊下に壮の声が響く。
言われてすぐに意味がわからなくて、壮の顔を見る。
キラキラとした瞳に涙が溜まっていく。
「もうお前が死のうとしているところなんて見たくないんだ」
壮の言葉がすこし震えていた。
死のうとしているところ、それは壮がイヴァンだった時の話、首に短刀を押し付けている時の話。
壮はイヴァンの記憶を思い出してる。
思い出して、伊織を選んでくれた。
そう思うと涙がぼろぼろと溢れてきた。
年甲斐もなく、ぼろぼろと際限なく溢れていく。
「またお前が先に泣いたな」
そう言う壮の瞳からも涙が一筋流れた。
「壮が素直に泣けない分、俺が泣いてあげてるんだよ」
精一杯の強がりで返す。
壮と目が合い、ふたりして少し笑ってしまった。
「壮、今度はふたりで、長生きしようね」
今度は平和なこの世で、ずっと。
喧嘩もして、仲直りして、イヴァンとは出来なかった事を壮としていく。最後の最後に思い出すのは壮との幸せな人生でありますように。
壮の頬に一筋流れる涙をぬぐった。
END
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