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番外編 後日談
想いが通じ合った次の日。学園祭の片付けの日。
壮は体調を崩して自室のベッドで寝ていた。身体が怠く、咳が止まらない。
「昨日も体調悪かったのに、無茶するから」
伊織はため息を付き、持ってきたコンビニ袋を勉強机の上に置いた。学園祭の片付けが終わってから来たからか制服姿のままだった。
「はい、これ飲んで」
コンビニ袋からペットボトルを取り出してキャップを開けてから壮に手渡す。それを受け取って身体を起こそうとすると、支えるように伊織の腕が肩に回る。
「……ありがとう」
ん、と返事をして、ベットに腰掛ける伊織に少しだけドキッとしてしまう。
昨日、告白して、告白されて、これは付き合ったという認識でいいんだろうか。
「熱は?まだ高い?」
今日の伊織は髪もセットしてなくて、眼鏡を掛けていた。でも、学園祭数日前のやつれた感じはない。
セットもなく、眼鏡姿の伊織は見慣れてなくて、少し大人っぽくて緊張する。
「9度までは行ってない」
ゴホゴホ、と咳を溢すと大きな手のひらが背中をさすってくれる。手に握ってたペットボトルも取られる。
「寝ときなよ」
落ち着いた声がかかり、するりと手が額を撫でて、そのまま頬を一撫でする。自身の身体が熱いからか、冷たく感じるその手に目を伏せて、顔を寄せてしまう。唇がすこしだけ手に触れてしまい、目を開け、伊織の事をみる。
「そ〜う〜……」
来た時の雰囲気はどこへやら。眉を下げに下げて、情けない声を出しながら壮の肩に頭を付ける。
「俺、いろいろ我慢してるんだから、煽らないで」
深呼吸をして、伊織はそういった。
やっといつも通りの雰囲気に戻った伊織に壮はすこしだけホッとする。過去の話を聞いても、今隣にいるのはいつもの伊織だ。
「さすがに病人に手は出せないよな」
肩にあるパーマ頭をくるくると指で遊びながら撫でてやる。伊織は両手を壮の腰に回し、ギュッと抱き寄せた。ふんわり香る伊織の匂いに、壮も軽く背中に腕を回す。
「その言い方だと出して欲しいって言われてるみたい」
ぐりぐりと肩口に頭を押しつけられる。
「そういう意味ではない」
ふふ、と笑みが溢れた。
伊織の頭にこつん、と自身の頭を当てる。
「でも、別に嫌じゃない」
伊織は傷付けることは絶対しない。そうわかってるからこそ言えた言葉だった。思い返してみても、伊織に嫌な事をされた記憶はない。いつも隣で笑顔を浮かべてる記憶ばかりが蘇ってくる。
思い出を脳裏で再生してると、伊織の両腕にぎゅーーーっと力が入って2人の隙間がゼロになる。
「……これ、タチの悪い夢じゃないよね?夢が覚めたら学祭前とか、そんなことないよね」
痛い、と口に出そうとしたとき、伊織がそう小さな声で呟いた。
昨日、伊織はずっと好きだった、と壮に告げた。ずっととはいつからだろうか。前世のあの時からずっとなら、考えも付かない程の年月なんじゃないだろうか。冴島壮になってからだとしても、17年。その間無意識に何度伊織を傷つけたのだろう。
「夢じゃないよ、全部現実」
負けずと壮もぎゅーっと伊織を抱きしめた。気持ちが伝われ、と願いながら力の限り。
「いままでずっと我慢してきたんだろ、熱が下がったら全部したいこと付き合ってやるから」
「え、ほんと?」
思いの外すぐに帰ってきた返事に、壮はびっくりしながらも、うん、本当。と続ける。
「んじゃあ……」
考えてるのか、沈黙が流れる。
まさか、変なことでも考えてるんじゃ……。と、壮が恐る恐る腕の力を抜き、伊織の顔を覗こうとする。
「毎日俺と登下校してくれる?」
顔を赤くして伊織はそういった。
目線があって恥ずかしくなったのか伊織は壮の身体を抱き寄せて、ぎゅっと抱きつく。
「んで、たまにクレープとか食べに行ったり、買い物行ったりしたい」
「そんな事でいいの?」
思ってもなかったお願いにびっくりして聞き返してしまう。
「壮の好きなことして、笑顔を見て、これが俺の恋人なんだな、って実感したいの。」
「なにそれ」
少しだけ笑ってしまったあと、コホコホ、と咳も出てしまった。
「早く元気になって、壮は俺の恋人なんだって実感させて」
身体が離れて、頭を撫でられる。
寝転びなよと声をかけられて、ベットに横になると肩まで毛布をかけられて、トントン、と胸を叩く伊織。
静かな時間が流れるが、居心地が良く、瞼が重くなってくる。
「おやすみ、壮」
眼鏡越しの伊織の目が細くなり、ふわっとした笑顔を浮かべる。
ああ、タチの悪い夢じゃありませんように。
壮は心の中でそう願い、瞳を閉じた。
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