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【執愛】
「……ん」
ゆっくり瞼を開いていくと、昨日会ったばかりの青年が隣で寝息を立てているのが視界の隅へと映り込む。
(夢か)
今見た夢を思い出し、織間歩樹 は深く溜息を吐き出した。じっとりまとわりつく感触は寝汗をかいたせいもあるが、久々に見た夢の内容がやけに生々しかったから。
(なんで今更)
フラッシュバックする映像を振り払うように頭を振ると、隣で眠っている青年がこちらに向かって寝返りを打つ。名前は何といっただろう? 一晩限りの遊び相手を久方ぶりに求めはしたが、結局歩樹は自分の中の空洞を思い知っただけだ。
(潮時……だな)
数ヶ月間一緒に暮らした相手のことを思い出し、自嘲的な笑みを浮かべると歩樹は身体を静かに起こす。
彼ならば、好きになれると思ったのに……結局自分は選んで貰えず〝いい人〟のままで終わってしまった。それを未だに引き摺っているということを、普段の歩樹を知る人が聞けば、『あり得ない』と驚きを口にするだろう。
「ん……あ、アユキさん?」
考えながら服を着ていると、ようやく目覚めたらしい青年が掠れた声で自分を呼ぶが、それに言葉を返すことなく歩樹は財布を取り出した。
「え?」
「ホテル代。チェックアウトまで時間があるから、君はゆっくりするといい」
「な……」
テーブルの上に札を置くと、固まっている青年を残してホテルの部屋を後にする。背後から何か言ってくる声が聞こえたが、あえて耳には入れなかった。
冷たいようだが優しくすれば、結局自分を追い詰める。それに……もうこんな不毛な遊びは止めようと、歩樹は心に誓っていた。
〝彼〟と過ごした半年間で、変わってしまった自分の心がはっきりと見えてしまったから。
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