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「俺がいるの、迷惑?」
整った顔をしていると……改めて歩樹は思う。
歩樹自身も身長は低い方では無かったし、異性からも同性からもモテるほうだと自覚しているが、百八十を超える長身に甘めのマスクをしている彼が、こんな表情で尋ねてくれば、大抵の人間はきっとそうだとは言えない筈だ。
「そんなことは無い。ただ楓の負担になりたくないだけだ」
本当にそれだけ。自分にそう言い聞かせながら真剣な顔で歩樹が告げると、今度は笑顔を向けられて……顔に熱が集まった。
「良かった。負担なんかじゃないよ。五年も会えなかったから、兄さんと一緒に過ごせて嬉しいって思ってる。だから俺に気を使わないで」
「……そういうことなら有難いよ。でも、自分の用事を優先しろよ」
柔らかい笑みを浮かべた楓にそう言葉を返しながら、歩樹の心は言いようのない違和感に囚われる。
(気のせいだ)
おかしなところなんて無いと、自分自身に言い聞かせるけれど……拭い切れない不安な気持ちは時折歩樹を支配する。
「了解。で、明日は何か予定あるの?」
「ああ、ちょっと人と会う用事があるから……楓は適当にやってて」
「誰?」
「誰って、仕事の知り合いだけど」
本当は違うのだけれど、ついて来られては困るので……咄嗟に嘘が口を突いた。
「分かった。適当にやってるよ」
「部屋の物、壊すなよ」
茶化したように歩樹が言うと、「もう子供じゃないんだから」と楓が笑う。
そんな何気ないやり取りに……まるで昔に戻ったような擽 ったい気分になるが、心の何処かがそれは違うとずっと囁き続けていた。
本当は、明日歩樹は見合いをする。
世話になった上司からの紹介で、断り切れずに受けた話だが、歩樹ももう二十九だし、相手によっては真剣に考えようと思っていた。それを楓に言えずにいるのは気恥ずかしいからもあるけれど、何となく……そうした方が良いと本能が告げてきたから。
(明日、帰ってから言えばいい)
酒が入ったせいもあって、いつもよりも砕けた感じで彼に接することが出来た。誘われるままに梯子 して、帰宅したのは日付けを跨いだ後だったけれど、習慣通りシャワーを浴びて歩樹はベッドに横たわる。
「ふう……」
酒にはかなり強い方だが久しぶりに沢山飲んで、本当はかなり酔っていた。
「アイツ、強いな」
顔色一つ変えなかった楓の顔を思い出し、歩樹は大きく息を吐くと、閉じた瞼を腕で覆う。
(良かった)
今日は普通に会話が出来た。
(こうやって。すこしずつ)
状況に馴れていけばいい。
そんなことを考えだすが、心地好い酔いと冷たいシーツの感触に、すぐに歩樹の意識は霞 んで覚束ないものとなる。
今まで眠りが浅かったせいか、この日歩樹は久々に……深い眠りに堕ちていった。
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