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「……やめっ」  不利な状況と分かっていても、だからといって思い通りにさせるなんてできやしない。顎を掴んでくる掌を避けるように首を振ると、チッと舌打ちの音が聞こえて頬をバシリと叩かれた。 「っ!」 「もう、いい加減にっ」  苛立ちを滲ませた表情に怯むことなく睨みつけると、眉間に皴を刻んだ楓が髪を鷲掴んでくる。 「諦めろよ」  鼻がくっつくくらいの距離で告げられ、歩樹は歯を食いしばる。 (そんなに俺が……憎いか?)  こうなってしまってはもう……逃れようが無いことくらい歩樹にだって分かっているが、それでも負けを認められずに体を(よじ)って(あらが)うと、口を無理矢理こじ開けられて枷が中へとねじ込まれた。 「無駄なこと、嫌いな割には頑張ったな」  息を僅かに乱した楓が体をずらして布団を()ぐ。 「……っ!」  拘束され、体を守る術がなくなってしまった歩樹は、フルリと体を震わせるが、頬を軽く張られたくらいで心が折れることは無い。  一つ一つ、寝衣のボタンを楓の指が解いてゆくのに尚も体を捩り続けると、また舌打ちの音が聞こえて、布の上からペニスをギュッと掴まれた。 「ぅっ!」  情けない声を上げるのだけはなんとか堪えた歩樹だが、急所を襲った激しい痛みに目が眩んで息が詰まる。 「抵抗するなら握り潰す。コレ、俺には別に必要ないから」  徐々に強まる圧迫に、歩樹の顔は蒼白になり、無意識に閉じようとした内股が小刻みに震えはじめた。 「抵抗、止める気になった?」 (本気だ)  言いなりにならなければ、彼は本気で潰すつもりだと悟った歩樹が頷けば、ようやく楓の手が離されて指が再びボタンに掛かる。 「見合いなんて許さない。兄さんにそんな権利ない」 「……」  端正な顔が歪んでいくのを瞳に映し、歩樹は呼吸を整えながら、以前と同じ彼の表情に胸が鈍く痛むのを感じた。  こんな事をしてみたところで、状況は悪くなるだけだ。これからのことを考えれば、正気とはまるで思えなかった。 (どうするつもりだ?)  一緒に仕事をしていくのに、デメリットしかないと思う。歩樹が思考を巡らせる間も楓が指を止めることは無く、あっという間に着衣を開かれ腹へと指が触れてくる。 「……っ!」  (へそ)の辺りからゆっくり上へと人差指が這い上がり、息を詰めると胸の真ん中で楓は一旦動きを止めた。 「いつまで声、出さないでいられるかな。まあ、そうじゃないと兄さんらしくないけど」 『勝手な事を!』と叫びたかったが、言葉を放つことは出来ない。

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