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(甘かった)  相手が楓じゃなかったら……こんな失態は犯さなかったと歩樹は苦い気持ちになるが、なったものは仕方がない。 (こうなったら……)  我慢するしかないだろう。これから自分を襲うのは、暴力よりももっと残酷な仕打ちであると分かっているが、抗う手立ては持っていないし相手が止める気配もない。  無駄に抵抗しない方がきっと早く終わるだろうと、諦めにも似た感情が……歩樹の心を支配した時、楓の腕がサッと上がって腹をいきなり殴られた。 「ぅっ!」 「そんな風に冷静に考えてられるのも……今のうちだ」  体を丸めることすら出来ない歩樹は枷を噛み締める。更に数回頬を叩かれ、視界がグラグラと回りはじめる。 (冷静なんかじゃない。お前が来てから、ずっと俺は……)  一方的な暴力に、それでも声を出さずにいると、焦れたような舌打ちが聞こえ、楓の手がピタリと止まった。口内に、鉄の味がじわりと広がる。 「あれから……男に抱かれた?」  耳元でそっと囁かれ、背筋にゾワリと悪寒が走った。 (そんなこと)  ある訳ない。誘われたことは何度かあるが、性格上、相手に全てを委ねるなんて出来なかった。だけどそれを楓に教えるつもりもないから、歩樹はギュッと瞼を閉じ、逆らったことで襲うであろう暴力に備え拳を握る。  けれど、少しの間そうしていたが予想していた事態はおこらず、薄く瞳を開いてみれば、至近距離から自分を見下ろす双眸と視線が絡んだ。 「答えたく無いならいい。体に聞くから」  僅かな睫毛の震えから……歩樹の怯えを読み取ったのか、薄い笑みを浮かべた楓が抑揚もなく告げてくる。 (同じ過ちを……繰り返すつもりなのか?)  この数日、昔のような関係に戻れるかもしれないと……そんな期待をしていた自分は、本当に甘かったのかもしれないけれど、だからといって社会人になった楓がここまでするとは思わなかった。 (思いたく、なかった)  冷たい彼の掌が、打たれたせいでジンジンと痛む頬を撫でてから、首を通って胸へと動く。

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