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「触るな」  強い力で手を叩けば、手首を軽く振った楓が困ったように息を吐きだした。 「兄さんさぁ、今の状況分かってる? 立つことも出来ない癖に、大事なモノが守れんの? さっきのアレは録画したし、素直な佑樹は俺にも結構(なつ)いてる。どうすればいいのかなんて、ちょっと考えれば分かるだろ?」 「お前、こんな事して……」 「兄さんは優しいから告発なんて出来やしない。それに、体裁を気にする父さんに、こんなこと言えないだろ?」 「……っ」  全てが計算済みだと分かって歩樹は楓を睨みつけるが、ボタンに再び指が掛かっても今度は抵抗できなかった。 「理解したみたいだな」  喉を鳴らして楓が笑う。気を失った自分に寝衣を着せたのは彼の筈だから……これはきっと羞恥を煽るためだけの行為と言えるだろう。 「んっ」 「痛い?」  唇の端を指でなぞられて歩樹は首を横へと振る。頬を何度も張られたせいで多少の痛みは感じるけれど、それよりも……殴られた腹や未だに何かが挟まったような感じがしているアナルの方が、熱と痛みを帯びていた。 「引っ越しまでには治るだろ。まあ、それも兄さん次第だけど」 「クっ……ぅっ」  剥き出しになった胸の尖りに舌が這わされ悪寒が走る。 「俺、兄さんのマンションに一緒に住むことにしたから」 「なっ」 「駄目だとは言わせない。大丈夫だよ、仕事に障るようなことは、流石にしないから」  胸から口を離した楓が笑みを浮かべて告げてくるのに、拒絶の言葉を返せるだけの気力はもう残っていない。 「好きにしろ」  吐き捨てるように返事をするのが精一杯の抵抗だった。 「言われなくても好きにするさ」  そう言い放った楓の顔は笑みを湛えたままだったけれど、明確な怒気を(まと)った声に歩樹の身体は自然と強張る。 (また、怒らせたのか?) 「っ!」  鎖骨の辺りに歯を立てられて痛みに掌を握りながら、これから自分を襲うであろう更なる痛みに身構えた。理不尽な暴力だが、今は逃れる術がない。

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