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ピチャリ……と、髪から雫が湯面に落ちる様子をぼんやり目に映す。
「ふぅ……」
浴槽へと身体を預け、歩樹は深く溜息を吐いた。あれから……熱を出した歩樹は二日ベッドの上から動けなかった。と、いうよりも、動こうとすれば動けたのだが、楓がそれを許さなかった。
その間、彼は歩樹をいたぶるようなことはせず、表面上は無愛想だが何かと世話を焼いてくれた。
(倒れられるのは困るってことか)
なんでも理屈で考えるのは悪い癖だと思っているが、自分の心を静める為に歩樹はあえて考える。相手に好意を抱く時には、理由なんて思いつかない場合も多いが、憎悪や悪意の場合には。
(厄介だな)
辿り着いた結論を前に歩樹は頭を左右へ振った。視線を下へと向けていけば、数日前に受けた暴力の痕跡が……いたるところに残されているから思わずそこから目を逸らす。
『風呂沸かしたから入って来いよ』
熱もようやく下がったから、シャワーを浴びて汗を流そうと思った矢先に楓に言われ、内心少し戸惑った。
嫌う相手に親切にする彼の気持ちが分からないから、また何かを仕掛けられるんじゃないのかと警戒したが、どうやらそれも無さそうだ。
「……ったく」
関わらなければ良かったのに……と、思わずにはいられないけれど、それでは収まり切らない気持ちが楓の中にあるのだろう。だけど、気が済むまで付き合うだなんて思えるほど、物分かりが良い性格ではない。
(隙を見て、アイツの弱みを見つけるしか)
方法は無いように思われた。佑樹にまで手を出すなんてことは考えたくもないけれど、もしものことを考えれば、なるべく早く手は打ちたい。
「だな」
方向が決まったところで幾分頭がスッキリした。対抗できるだけの条件が揃うまで、当分の間彼の言いなりにならなければならないけれど、仕事さえ始まってしまえば幾分か楽になるだろう。
(でも、その前に)
二人できちんと話をしたい。楓も大切な弟だから、出来ることなら争わないで解決したいと歩樹は思う。
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