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 両親の関係が良くないことは分かっていたから、佑樹の誕生をきっかけにして普通の家族に戻れたら……なんて、まだ子供だった歩樹は密かに心の奥で期待した。だけど。  淡い願いは叶うことなく、佑樹は祖母と雇った家政婦がほとんど育てる形になった。 『仕方ないのよ。お母さんを嫌いにならないであげて』  決して体の強い方ではなかった祖母は、それでも懸命に佑樹を育て、歩樹も楓も出来る限り協力した。  幼かった歩樹には、酷い母としか思えなかったが、優しい祖母にそう言われれば感情を(あらわ)にも出来やしない。  忙しい父親とも滅多に顔を合わせないから、歩樹にとって家族とは……祖母と楓と佑樹を指す言葉だった。  祖母は分け隔てすることなく楓にも優しく接し、楓も祖母に懐いていたが、後から思えばそれも当然の行動で。 「……ん?」  違和感に、目が覚めた。瞼を開けると真っ暗で、まだ夜なのだと歩樹は悟る。 「っ!」  そして……違和感の正体に気づき一気に体を強張らせた。 (どうして……こんなっ)  どういう訳か背後から伸びた長い腕に抱き込まれていて、首を捻って目を凝らすと、暗闇の中に予想通り楓の寝顔がぼんやりと映る。 (なに、考えてるんだ)  普通、嫌いな人間と一緒になんて寝ないだろうし、歩樹を困らせる為だというなら、こんな方法はとらないだろう。 「……目、覚めちゃった?」  あれこれ思考を巡らせていると、至近距離から掠れた声が歩樹の鼓膜を揺さぶった。暗くて顔は良く見えないが、突然のことに驚いてしまい返す言葉もでてこない。 「まだ夜中だろ、寝てろよ。それとも喉でも渇いた?」 「いや……でも」 「だったら寝ろ。今日は……何もしないって言っただろ」  言葉と同時に腹に回された楓の腕へと力がこもり、逃げることも叶わなそうだと歩樹は小さく息を吐いた。本当は『なんで?』と問い詰めたいけれど、それを口に出す気力もない。 「分かった、おやすみ」 「おやすみ」  前へ向き直りそう告げると、歩樹はきつく瞼を閉じた。 (参ったな)  この状況は正直かなり落ち着かないが、心の底には嫌がっていない自分もいて……そんなジレンマに歩樹の中での困惑は更に深まってしまう。 「ん……」  考えを整理する間もなく首筋にチュッと吸いつかれ、思わず漏れた小さな吐息に顔へと熱が集まった。

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