28 / 119

28

 *** 「広ーい。綺麗! いいなぁ、兄さん達こんな所に住むんだ」 「佑樹、眺めもいいぞ! ほら、学校もすぐそこだし」 「ホントだ、俺もここに住みたい!」  ベランダから聞こえてくる佑樹とその幼馴染の亮との会話を聞きながら、歩樹は顔を綻ばせる。  今日は朝から引っ越しで、業者が荷物を運び終えた頃、二人が昼の弁当を持ってここを訪ねて来てくれた。 「佑樹も住めば? 部屋余ってるし」 「ホント? いいの? でも、どうしよっかな」 「ダメだ。佑樹は俺んちの隣じゃないと一緒に学校行けなくなるだろ」  楓の誘いに考え込んでしまった佑樹を引き止めようと、慌てた様子で反論している亮が可愛く思えてしまい、歩樹は笑みを深くする。 「佑樹、住むのは止めておけ。亮に恨まれたくない。いつでも遊びに来ていいから」  いつものように頭を撫でれば、擽ったそうに首を竦める佑樹の姿に癒される。  日常から離れた場所にずっと浸かってしまっていたから、久々に過ごす普通の時間がやけに新鮮に感じられた。 「にしても……亮、大きくなりすぎだろ。高校生の癖に生意気だな」 「楓さんのが全然デカイじゃないですか」 「佑樹にちょっと分けてやれよ」 「余計なお世話っ。俺にだってそのうち成長期が来るんだから」 「はいはい、来るといいな」  久しぶりに会ったというのにもう軽口を叩き合う二人に、昔に戻ったような気がして歩樹は目を細めて微笑む。 「兄さん、楓兄さんになんとか言ってやってよ!」 『兄ちゃ…かえでがチビって言う!』 (昔は良く泣いてたっけ)  だけど良く懐いてもいた。  不器用なりに可愛がろうとしていたのが、きっと佑樹にも伝わっていたからだろう。 「腹空いたな、弁当食べよう。佑樹は……そのままで十分だ。な、亮もそう思うだろ?」 「俺? 俺は佑樹ならなんでも好……痛ぇっ!」 「亮は黙ってて! 兄さんまた適当に流すし」 「いつもの事だからだろ? ってか佑樹、顔真っ赤だぞ」 「な、違う! これは……暑かっただけっ」  指摘を受け、更に顔を真っ赤に染めた佑樹の姿に堪えられなくなったのか……今度は楓も吹き出した。 「佑樹……分かりやす過ぎ。お前のそういうトコ、凄い好きだから、変わってなくて安心した」  嬉しそうな笑顔が眩しい。自分には、久しく向けられていないそれを、佑樹にはすぐ見せたことに胸がチクリと痛みを覚えた。

ともだちにシェアしよう!