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(不毛だ)
なにもかもが今更だ……と、心の中で自嘲していると、近づいてきた楓にいきなり手首を強く掴まれた。
「モテたもんな……兄さんは」
「そんなこと考えてたんじゃない。手を離せ」
何かおかしな勘違いをしているらしいと感じ取り、振り払おうとしてみるけれど、離すつもりはないらしい。
「変に思われるだろ」
「思われたくなかったら、逆らうな」
低い声。自分の何が彼の神経を逆撫でしたのか分からないけれど、この場合、揉めない方が得策だと判断した。
そのまま、橋の脇から橋脚の方へ下りる階段へ連れて行かれ、人目に付かなくなったけれど……目の前にいる弟からの威圧感に背筋が凍る。
「楓、一体……」
「跪いて、口でしろよ」
橋脚の影に連れ込まれ、意味が分からず戸惑う歩樹にカチャリとベルトを外しながら、楓が冷たく言い放った。
「なに……言ってるんだ。こんな所でそんなこと、出来る訳ないだろ」
ズボンのボタンに指が掛かるのを唖然と見ていた歩樹だが……阻止しなければマズイと気づいて慌てて楓の手首を掴んだ。
「それを決めるのは兄さんじゃない。見られたくなけりゃ早く済ませればいいだけだ。手、離せよ」
飄々とそう答えながら笑みを浮かべる彼の様子に、胃の奥が鈍く痛むけれど、ここで折れる訳にはいかない。
「気に入らないことがあるなら俺にハッキリ言えばいい。楓、お前おかしいよ。普通だと思ってたら、いきなりこんなことするし、こんなんじゃこの先、どうやって一緒に暮らせばいいか分からなくなるだろっ」
出来る限り冷静に、感情を出さないように努 めてきた歩樹だが、話している内、気持ちが昂ぶり珍しく語尾が乱れてしまった。
掴んだ両手を顔の横へと縫い付けるように抑えつけ、返事を促すように見遣れば、薄闇の中、楓の顔から笑みが消えるのが見てとれる。
「おかしい……ね」
小さいけれど良く通る、威圧的な声音が響き、反撃を予測した歩樹は掴む指に力を込めた。
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