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「おかしいだろ? 俺が嫌がることをして、それで気が済むのか? そうじゃないだろ?」  ここ数週間一緒にいて楓を受け入れ続けてきたが、このままでは何も解決しないことは分かっている。楓にだってそれくらい、もう分かっているだろう。 「そんなに俺が嫌だって言うなら今度は俺が出ていく。二度と顔も見たくないって言うなら、連絡先も誰にも教えないようにする。だから……もうこんなことは終わりにしよう」  この数日、ずっと考え続けていたことを真っ直ぐ瞳を見て告げた。最初こそ、楓の弱みを握れば済むと思っていたけれど、それでは今の彼がしていることとなんら変わらない。 「佑樹が……どうなってもいいんだ」 「俺が消えれば佑樹に当たる理由も無くなる」  最初から、こうしていれば良かったのだ。  病院を継ぐのは別に自分じゃなくても構わないのに、小さな頃から言われてきたから、無意識の内に考えが凝り固まってしまっていた。 「兄さんは、そうまでして佑樹を守りたいんだ。まあ、当たり前か……佑樹とは本当の兄弟だもんな」 「違う、そういう意味じゃない」 「分かってるからいい。また綺麗事を言うんだろ? 確かに……関係ない佑樹を使って脅迫紛いなことをしたのはやり過ぎだったと思ってる」 「そう……か」  あまりにすんなり聞き入れられて、違和感を覚えるが、とにかく話が出来たのだから、前進なのだと思うことにする。 「もうなにもしないから、手、離してくれ。とりあえず家に帰ろう」 「ああ、そうだな」  先程までとは打って変わって冷静な顔を見せた楓に、流されるような形で歩樹は強く掴んでいた手を離した。 (どうして、もっと早く気づかなかったんだろう)  自分から家を離れたのにも関わらず、それでも憎悪を消せなかったから楓は此処へと帰ってきた。ならば、憎む対象である自分が今度は姿を消せばいい。 (そうだ。明日にでも)  出て行こう……と、歩樹はそっと決意する。  それは逃げだと分かっているが、このままよりもずっといい。

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