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「うぅっ」  けれど、膝で肘を強く踏まれ、抵抗は徒労に終わる。 「無駄だって」  更に髪を後ろに引かれ、歩樹は自分の不甲斐のなさに、泣きたいような気持ちになった。 「武道と喧嘩は違うんだ。兄さんは喧嘩なんてしたこと無いだろ?」 「……お前だって」 「俺? 俺は、兄さんが思ってるほど優等生じゃなかった。それなりに喧嘩もしてたし遊んでもいたよ。セックスだって、中学からしてたの知ってるだろ?」 「あ……」  耳元で、囁くように紡がれた言葉に襲ってきたのは罪悪感。 「ごめんな」 「またそうやって謝るんだ。俺が赦すって言えば、兄さんの気持ちは晴れるもんな。まぁ、そうじゃなくても謝るしかないって思ってるんだろうけど……でも違う。俺が求めてるのは、そういうことじゃ無い」 「じゃあなにを……」 「分かってんだろ? だから逃げようとしてるんだ」 「いっ!」  ガブリと首筋に噛みつかれ、痛みに身体がビクリと跳ねた。 「今、ちゃんと教えてやるよ」  頭から手が退かされて、背後から……カチャリとベルトを外す音が聞こえてくる。 「楓、逃げないから、お願いだから、ちゃんと話をさせてくれ」 「話すことなんて無い。兄さんは、俺の下で喘いでればいいんだよっ」 「っ!」  ベルトを使って歩樹の腕を素早く背後で(まと)めた楓が、今度は歩樹のベルトを外してそれをスルリと引き抜いた。 「もうすぐ仕事も始まるから、控えようって思ってたけど、兄さんが逃げようなんてするから悪いんだ」 「止めろっ」  何をしようとしているのかを悟った歩樹は立とうとしたが、ふくらはぎを踏み付けられて動きがとれなくなってしまう。 「ほら、また逃げようとした。兄さんは嘘つきだ」  ズボンに掛かった楓の指がズルリとそれを引き下げる。尻が外気に触れる感覚で背筋にゾクリと悪寒が走った。 「いい格好だ。貴司って奴が見たら、なんて言うだろうな」 「貴司とは、お前が思ってるような関係じゃない」  膝立ちで、腕は背後で一纏めに括られた上、前のめりにソファーへ倒され尻を剥き出しにされているなんて、歩樹にとっては貴司とはいわず誰にも見せられない格好だ。

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