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 この時下した判断が、間違いだとか正確だとかは後にならねば分からないことで、今の歩樹だったとしても同じ決断をしただろう。  この関係を守りたい。  ただそれだけを願っていたのに、楓と距離を置いたせいで歩樹は彼の小さな変化に気がつくのが遅くなり、結果積み上げた信頼までもが跡形も無く消え去った。  誰かを好きになりさえすれば戻れると考えたのは、浅はかかもしれないけれど、同じ状況に置かれたならば、大抵の人はきっとそう考えることだろう。 『遊んでいた』と佑樹などは思っているみたいだが、当時の歩樹にそんなつもりは全くと言っていいほど無く、その時好きだと思った相手を大切にしていたつもりだ。  ただ、長続きしなかっただけ。  エスカレーター式の男子校へと通っていたから、男と付き合うこともあったが、女性とだって付き合った。  『男が好き』だと佑樹や楓が勘違いをしているのは、自宅へ連れて帰るのは男だけにしていたからだろう。  一応、弟達の目を気にして、男ならば友達と言えば済むと思ってそうしていた。  一般的な性欲は歩樹だって持っていたから、離れにある自分の部屋はそういう行為をするには何かと都合が良く、『勉強するから近づくな』と先に一言伝えておけば、邪魔が入る心配も無い。  当時はまだ小さかった佑樹などは、そんなこと知らずにいたのに、中学生になった辺りで、ふざけた歩樹の友人が『モテてた』とか『取っ替え引っ替えだった』とか、ある事無い事吹き込むから、すっかりそうだと思ってしまい、あながち嘘ばかりでは無いから敢えて否定もしなかった。  年が離れているせいもあるが、佑樹はそれで離れるような弟じゃない。楓は……目さえ合わせてくれなくなってしまったけれど。 「兄さんって、男が好きなの?」 「男とか女とか、そういうのはあんまり気にしない」  淡々とした楓の声は今まで聞いたことの無い、冷たい響きを孕んでいた。それに応対する歩樹は、年長者として冷静に表面を取り繕う。  高校二年生の春。  合鍵を持たせていたのが悪かったのかもしれないが、まさか楓が鍵を開けて入って来るとは思わなかった。

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