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身構えも、緊張もせずにこうして気軽に触れ合えるのは、時が流れたからなのだろうと歩樹はぼんやり考えた。
「弟さん、直ぐに迎えに来るって言ってたから、もう少し俺の膝で我慢してくださいね」
「え?」
「さっきアユが倒れた時携帯が鳴って、最初は出なかったんですけど、あんまり何度も鳴ってるから画面を見たら織間って同じ苗字だったので、ご家族でもし急用ならアユは今出られないって、それだけ言った方が良いかと思って……本当、勝手にすみません」
「いや、いいよ。気を遣わせて悪かった。で?」
「そしたら向こうは弟さんで、倒れたって言ったらすぐ行きますって」
「そうか……分かった」
完全に意識を失った五分足らずの短い間に、そんなことになっていたなんて思いも因らなかったから、内心酷く動揺して、声が僅かに上擦ってしまう。
「もしかして……マズかったですか?」
変化を感じ取ったのだろう。不安そうに眉根を寄せ、尋ねてくる貴司を安心させなければと唇を開きかけたところで、彼の視線が前へと動いた。
「呼んでくれてありがとう。助かったよ」
下腹へと力を込め、歩樹は重い身体を起こす。少し眩暈はしたけれど、これくらいなら歩くには問題無いだろう。
視線を入口付近に移すと、予想した通りこちらに向かって歩いて来る楓が見えた。
「でも……」
「会えて嬉しかった。またお互い落ち着いたら、ゆっくり話そう」
小声でそう伝えれば、貴司は何度も頷きながら、「いつか……絶対ですよ」と返し、重たい空気を読みとったようにそれ以上何も言わなくなる。
迎えに来た楓は勿論いつものように好青年で、礼儀正しく貴司に礼を告げた後、歩樹の身体を労る言葉を何度も掛けてきたけれど。
(こんなのは、違う)
心配している彼の姿に、演技だとは分かっていても、騙されそうになる自分を心の中で戒めながら、歩樹は貴司に軽く手を振り楓と共に歩きだした。帰ったらどうなるかなんて想像もしたくない。
「迎え来てくれて、ありがとな」
それでも、礼だけはちゃんと言っておこうと、運転している彼に向って歩樹が一言呟くと、苦い表情を浮かべた楓が苛ついたように舌打ちをした。
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