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(でも、それもあと……少しだけの辛抱の筈だ)
精神的に疲弊してはいるが、仕事に復帰出来たおかげで冷静さは戻ってきた。そんな歩樹が思案の末、楓の目を盗んで調査を興信所に依頼してから、そろそろ一月程が経つ。
(なにか、対等に話せるネタが見つかれば良いが)
叩いて埃が出ない人など居やしないとは思うけれど、果たしてそれが切り札となるかは叩かなければ分からない。だから、いわばこれは一つの賭けだ。
「兄さん」
「……っ!」
考えに耽っているとすぐ背後から声が掛かり、驚いた歩樹の体はビクリと大きく反応した。
「驚き過ぎだよ。彼、鳥羽君だっけ? ずっと見てたけど、そんなに気になる?」
「そんなんじゃない。みんなで飲みに行くからって誘われてただけだ」
立ち去る鳥羽の後ろ姿を何とはなしに見ていたから、勘違いされたのだろう。言い訳するのも面倒だが、ちゃんと話さずに痛い思いをするのはもっと面倒だから、歩樹は楓を振り仰いで事情をきちんと説明した。
「へぇ……だったら行けばいいのに。付き合いもあるだろ」
「今度機会があったらな。それより楓、何か用があるんじゃないのか?」
病院内で会うことなんてほとんど無いから、きっと探して来たのだろう。試すような彼の言葉には反応を示さないよう努め、こちらから尋ね返してやると、瞳を僅かに細めた楓が探るように見つめてきた。
「たまたま見掛けただけだよ。まあ、携帯に連絡しようと思ってたから、丁度良かったけど……今日はちょっと遅くなるから」
「ああ、分かった」
「それだけ? 素っ気ないなぁ。何があるのか聞かないの?」
「俺には関係無いだろ」
気にならない訳ではないが、そんなことを聞いても意味はないだろうと思った歩樹がそう答えると、不意に腕を強く引かれて体が少しふらついた。
「な……なにするっ」
「ちょっと来い」
振り払おうとしたけれど、こんな場面を誰かに見られて兄弟仲が悪いなどと噂されるのは避けたいところだ。
仕方ないから促されるまま彼について歩きだすと、逆らわないと悟ったのかすぐに腕は離される。
使われていない会議室へと入ってドアを閉めた刹那、急に背後から抱き締められて驚きのあまり眩暈がした。
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