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「どういう事だ?」
調査結果をそのまま鵜呑みにするのは危険と思いながらも、これはきっと真実なのだとなぜか歩樹には分かってしまった。
だから、疑問形で紡いだ言葉は、受け入れることの出来ない歩樹の些細な悪あがきでしかない。
楓のことをより詳しくと依頼をし、相場よりもかなり高い金額を調査会社に支払った。
そんな依頼者の願いを受け、彼等は歩樹の想像以上にきちんと調べて結果を出し、完璧に近い資料を仕上げて自分に提供してくれた。そう、頭では理解出来るけど、感情がうまくついてこない。
(楓はこれを……知ってるのか?)
知らないのなら、この報告書は使えない。彼の力が及ばぬところを叩いて傷をつけるなんて、兄としても人としても、出来やしないと歩樹は思った。
(でも、もし知ってるとしたら)
突然帰って来たことも、楓が自分を憎む理由も今まで以上に合点がいく。
(これが真実だというなら、俺は……)
どうすればいいのだろう? 受けたショックを隠しきれずに親指の爪を軽く噛み、食い入るように書類を見ながら自問自答を繰り返す。
途中何度か来た着信にも出る気力が持てなくて、無視することでどんな仕打ちを受けるか分かっていながらも、刹那的な感情のままに携帯電話の電源を切ると、歩樹は買っておいたビールを煽るように飲み始めた。
結局、歩樹はマンションに戻ることはせず、悶々とした夜を過ごし、少し外が明るんだ頃、ほんの僅かな仮眠をとった。
(ちゃんと、確かめないと)
目を覚まし、熱めのシャワーを浴びた歩樹は、幾らかクリアになった頭で結論を導きだす。
途端、恐怖心にも似た感情が胸を支配するけれど、自分の為にも真実をきちんと知っておいた方が良いと判断した。
例えそれが許容し難い結果を生み出そうとも、調べてしまったからにはもう忘れることなどできやしない。
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