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「会えるとは思ってなかったから驚いたけど……本当に立派になったわね。佑樹も大きくなったでしょう。どうやってここを?」 「興信所に……違う案件を依頼したのですが、」 「そう。で、私に何を聞きたいの?」  核心を突く彼女の言葉に、大体察しはついているのだという事が伝わってきた。  恋しさだけで訪ねるには時間が経ち過ぎているし、離れた状況からすれば、会い辛いのは彼女の方も良く分かっている筈だ。 「楓の事です」  名前を口に出した途端、グラスを持つ指先がピクリと小さく反応した。 「そう、楓の……」 「はい、私と佑樹と楓の出生について全部話して貰えないでしょうか?」  報告書には楓について書いてあったが、あくまで当時を知る人間から聞き出した話でしかない。だから、自分と佑樹についてのことは、現段階では推測でしかないのだけれど。 「もう分かってしまったのなら、隠す必要もないって言いたいところだけど、それが真実って確かめて、貴方はどうするつもり?」 「まだ考えてません。ただ、知りたいんです」  本当の事を知りたい。それに、当時から見れば別人のようになった母親のことも気になる。 「……分かったわ。ただ、私と会ったことは誰にも言わないで。会わないことが、離婚の条件だったから」  言いながら、顔を歪める母の姿に胸はチクリと痛むけれど……どう答えれば良いものなのか歩樹には分からない。だから、歩樹は彼女を促すようにゆっくりと頷いた。  ***  随分と……時間が経ったような気がした。誰も居ない部屋へと戻り、当面生活出来るだけの荷物を鞄に詰め込みながら、歩樹は深いため息を吐いて窓の外へと視線を移す。 (夕立ちが来るな)  西の空が暗くなり、黒雲が青い空をどんどん浸食していく様子を見て、自分と楓にそれを重ねて切ないような気持になる。この場合の黒雲は、楓の心を(すさ)ませている自分自身の存在だ。 『あなた達兄弟は、なにも悪くない』  母は言った。楓に謝罪したいとも。  だけど、会うことを禁じられているからその想いは叶わないし、もし仮に叶ったところで、楓が彼女を赦すとも思えない。

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