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(とりあえず、どこかホテルに)
だけど、行き先を考えながら立ち上がったその瞬間、状況は一転した。
「っ!」
ポケットの中でマナーモードの携帯電話が震えだし、同時に目前のドアのロックが開かれる。
「かえ……」
「兄さん、どこに行くの?」
開いたドアの向こうを見て、血の気が一気に引いていくのが自分自身でも良く分かった。
「顔色が悪いみたいだけど……大丈夫?」
頬に触れて来る長い指を、振り払うことも出来やしない。
「昨日、病院であんなことさせたから拗ねた? でも、俺から逃げたらダメだろ。そんなこともまだ分からないなら……」
スッと近づいた楓の両腕に体ごと強く引き寄せられ、怒気を孕んだ彼の声音に腹の底が冷たくなる。
「またちゃんと……身体に教えてやらないとな」
耳朶を軽く噛んだ楓の囁きに……まるでの条件反射のように身体が細かく震えだした。
***
短絡的で子供じみた行為だと分かっていても、どうしても抜け出せない深い闇の中にいる。
この感情は憎悪だと、長い時間思っていた。だけど、今は――。
「んぐっ……うぅっ!」
ぐぐもった呻き声に思考を一旦中断すると、楓は目下で苦痛に耐える兄のペニスに手を伸ばす。
「淫乱」
「んっ、ううっ!」
もう片方の掌で掴んだ細い鎖を引きながら……萎えないペニスを扱いてやると、胸を出すように腰を浮かせる淫靡な姿に口を歪めた。
あれから……玄関で鉢合わせてから、歩樹は何かを諦めたように成すが侭になっている。
ベッドに上がれと言えば上がり、脱げと言えば素直に脱いだ。逃げようとしていた癖に、なぜ逆らわずに従うのか?
彼の真意を確かめようと「なんのつもりか?」と問い詰めたけれど、何も答えない歩樹に苛立ち何度か頬を強く打ち据え、それでも無抵抗を貫く彼の姿に、楓の中で何かが切れた。
「乳首なんかが気持ちいいんだ」
「んっ……うぅ、ん!」
胸の尖りに付けたクリップは左右が鎖で繋がっており、軽く引いただけだというのにわざとらしい程身体が跳ねる。
アイマスクをさせているから表情は良く分からないが、枷が嵌まった口から漏れる艶を帯びた喘ぎ声が、彼の如実な欲望を……楓にきちんと伝えてきた。
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