78 / 119
78
「本当に、なんでもないんだ。ちょっと喧嘩してて、会い辛かっただけだから」
『ホント? 兄さんが喧嘩なんて珍しいね。なにがあったか知らないけど、早く仲直りしなよ。二人とも俺の大事な兄さんなんだから』
「ああ、分かった。迷惑掛けて……ごめっ……」
ずっと圧迫されていたせいで、ジンジンとした熱と痒みに疼く乳首を突然捏ねられ、声が僅かに上擦った。
『兄さん?』
訝 しむような佑樹の声に返す言葉が見つからない。
「ごめっ……」
「もしもし、佑樹?」
そんな歩樹の様子を見て、もう限界だと悟ったのか? 急に耳から電話が離れ、黙っていた楓が突然佑樹へと話しかけた。
「ああ俺。兄さん昨日飲み過ぎたみたいで、かなり調子が悪いみたい。でさ……うん、そうなんだよ……」
ハンズフリーは解除され、佑樹の声は聞こえないけれど、二言三言話しただけでどうやら納得させたらしい。
「じゃあまたな。お前にまで迷惑かけて悪かった。ああ、ちゃんと話すから」
自分にはもう向けられはしない優しい声音を聞きながら、どうにもならないもどかしさに歩樹は指を握り締めた。
「ここ、取れちゃったな」
「う、んぅっ」
思いもよらず優しい手つきで胸の尖りをなぞられて……心地悦さに、小さな吐息が思わず口から漏れてしまった。
「気持ちいいんだ。でも、約束はちゃんと守らないとな。兄さん」
「やっ、あっ……ああっ」
這わされる舌のザラリと濡れた感触に、痛みと同時に愉悦を覚え、腰が自然に浮いてしまう。
拘束された状態では、ほんの少ししか動かせないが、それでも射精を求める身体を自分では制御出来なかった。
「こんなんでよく我慢出来たな。佑樹のことがそんなに大事?」
「佑樹も……楓も、大事……弟、だからっ……」
「嘘はいい。逃げようとした癖に」
「それはっ、ちゃんと……考えたくて……」
きちんと覚悟を決める為に、ほんの少しの時間を欲しただけなのだ……と、言いたかったが、それを告げることは出来ない。
何の覚悟と問われれば、自分が知っていることの全てを話さなければならないから。
ともだちにシェアしよう!