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「本当に、なんでもないんだ。ちょっと喧嘩してて、会い辛かっただけだから」 『ホント? 兄さんが喧嘩なんて珍しいね。なにがあったか知らないけど、早く仲直りしなよ。二人とも俺の大事な兄さんなんだから』 「ああ、分かった。迷惑掛けて……ごめっ……」  ずっと圧迫されていたせいで、ジンジンとした熱と痒みに疼く乳首を突然捏ねられ、声が僅かに上擦った。 『兄さん?』  (いぶか)しむような佑樹の声に返す言葉が見つからない。 「ごめっ……」 「もしもし、佑樹?」  そんな歩樹の様子を見て、もう限界だと悟ったのか? 急に耳から電話が離れ、黙っていた楓が突然佑樹へと話しかけた。 「ああ俺。兄さん昨日飲み過ぎたみたいで、かなり調子が悪いみたい。でさ……うん、そうなんだよ……」  ハンズフリーは解除され、佑樹の声は聞こえないけれど、二言三言話しただけでどうやら納得させたらしい。 「じゃあまたな。お前にまで迷惑かけて悪かった。ああ、ちゃんと話すから」  自分にはもう向けられはしない優しい声音を聞きながら、どうにもならないもどかしさに歩樹は指を握り締めた。 「ここ、取れちゃったな」 「う、んぅっ」  思いもよらず優しい手つきで胸の尖りをなぞられて……心地悦さに、小さな吐息が思わず口から漏れてしまった。 「気持ちいいんだ。でも、約束はちゃんと守らないとな。兄さん」 「やっ、あっ……ああっ」  這わされる舌のザラリと濡れた感触に、痛みと同時に愉悦を覚え、腰が自然に浮いてしまう。  拘束された状態では、ほんの少ししか動かせないが、それでも射精を求める身体を自分では制御出来なかった。 「こんなんでよく我慢出来たな。佑樹のことがそんなに大事?」 「佑樹も……楓も、大事……弟、だからっ……」 「嘘はいい。逃げようとした癖に」 「それはっ、ちゃんと……考えたくて……」  きちんと覚悟を決める為に、ほんの少しの時間を欲しただけなのだ……と、言いたかったが、それを告げることは出来ない。  何の覚悟と問われれば、自分が知っていることの全てを話さなければならないから。

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