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「あ、あいし……てる」  掠れた声。涙声に聞こえるのは、快楽に溺れ過ぎたせいか、それとも言いたくないからか? 「誰を?」 「あぁ……やめっ」  胸の尖りを転がすように、指の腹で撫でてやると、身を捩って逃げようとするからギュッと強く摘まみ上げた。 「いっ! かえ……楓を……あいし……て」 「いい子だ。どうやってイかせて欲しい?」 「あっ、突いて……中、奥……あ、あぅっ!」  言い終わる前に中のローターの震動を最大にして、そのまま深く中を穿つと、のけ反る身体を支えながら楓は歩樹を突き上げる。 「もう他の奴に突っ込むなよ。兄さんは、俺に突っ込まれてればいいんだ」 「あっ、ああっ……やあっ!」  深く挿さったブジーの留め具を外しながら囁いて、激しく腰を打ちつけながらそれをゆっくり引き抜いた。 「ひっ、や……ああぅっ!」 「クッ」  腕の中で極めた歩樹の身体が細かく痙攣し、中の伸縮に今度はたまらず楓も精を放ってしまう。 「あっ、はぁ……」 「分かった?」  耳元へ囁く楓の声はきっと届いていないだろうが、何度も頷く姿を見ながらきつく身体を抱き締めた。 「……兄さん?」  力が抜けた重みを感じ、声をかけてみるけれど、意識を飛ばしてしまったらしく歩樹からの返事はない。ペニスを抜くために持ち上げると、随分軽くなっていることに気づいて胸が鈍く痛んだ。 (悪いのは俺の方じゃない) 「なんで?」  追い詰めなければ思い通りにならない歩樹が悪いのに、こうも胸が詰まるのか? 「兄さん、俺は……」  本当は、心を占めている焦燥感の理由は既に分かっている。正確には、歩樹が消えた昨日の夜、はっきりと自覚した。 『愛してる』と、言わせることに執着している自分が何を望むのかも。  痩せてしまった歩樹の身体をベッドにそっと横たえて、その目隠しを外した楓は、朱く色づいたその目許へと唇を押し当てた。

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