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(なんで、あんなこと)  冷静に、冷静にと思考を廻らせようとしても、動悸ばかりが激しくなり、いつまで経っても納得のいく答えを導きだせなかった。  それから、しばらく待っても楓が戻って来ることはなく――。 (見に行った方がいいだろうか?)  ふいに、さっき夢で見た光景を思い出して心配になる。  彼が泣いているなんてことは、きっと無いと思うけれど、もし自分が、ほんの少しでも楓の力になれるなら。 (なれる訳、ないか)  あの言葉が、どういうつもりか分からないが、前提として楓は自分を憎んでいる。それだけは、忘れてはいけない。  きっと顔を見たくないから、ここに戻って来ないのだ。 (これは、夢だ)  そうに違いない。こんなことはあり得ない。だから、目が覚めたらいつもと同じ日常が戻っている。 (そうだ、だから……)  瞼を閉じ、現実から逃げるように歩樹は思考を遮断した。  実際には、断ち切ることなどそう簡単には出来なかったが、それでも身体の疲れのせいで、いつの間にか意識は徐々に闇の底へと堕ちていく。 「……さん、兄さん」 「ん……かえ……」  途中楓に揺り起こされ、口移しで注がれた水を、喉を鳴らして飲み込んだけれど、記憶は酷く曖昧で……だけど、不安そうに揺れる瞳が、やけにはっきりと瞼の裏へと焼きついた。  ***  それから、あっという間に一週間が過ぎ去った。仕事が忙しいというのは、こういう時には有難い。  たまたま夜勤が多かったから、ほとんど楓と顔を合わせずに週末を迎えることが出来た。  週始めは体が辛くて、また楓に求められたら不味いと思って怯えていたが、気遣いなのか、忙しいからなのか、その心配は杞憂に終わった。 (なにを、考えてる)  夜勤明けの帰り道、自転車を押して歩いていると、いつか貴司と会った公園が視界へと映り込んでくる。  当たり前だが桜はとっくに散っていて、陽に照らされた緑が眩しく、じわりと汗ばむ自分の肌に今更ながら夏なのだと……分かってはいたが実感した。 『全て受け止める』と決めてから、様々なことを考えたけれど、結局上手い解決法は今の歩樹には浮かばない。

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