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 当時すでに祖父は他界していたが、祖母と大学生の叔母とは父母と一緒に暮らしていた。  叔母は離れを使っていたからほとんど関わることも無かったが、あまり身体が強くないから、心配なのだと父はよく部屋に行っていたという話を聞いて、歩樹の中で父への疑心は確信へと形を変える。 『見てしまったの』  思い出すだけで辛いのだろう。俯いた母が紡いだ言葉になんの返事も出来なかった。  当時まだ若かった母には到底許せなかったと言うが、誰に話せばいいのか分からず、時を同じく実家の景気が傾いた為、援助を受けねばならなくなり。 『実家の事を考えたら、離婚も出来なかった。狂ってるって思ったわ。兄妹で、あんな事』  今自分がしている事を見透かされたような気がして、真っ当な彼女の言葉に胸の奥がチクリと痛んだ。 『私も、おかしくなってた。どうすればいいか分からなくて……結局何も出来なかった。貴方からすれば言い訳にしか聞こえないと思うけど』  それから、母は他人へと救いを求め、対外的には妻を演じつつ自分も浮気を繰り返し、一樹はきっと知っていたけれど何も言ってはこなかった。  歩樹を妊娠した時には、流石に離婚を言い渡されると思ったが、『そうか』と一言答えただけで、一樹は何も言わなかった。 『なのに、あの人は……』  二人の間に子供が出来たと相談も無く祖母へと告げた。話しはあっという間に広まり、事実を言えなくなった母は、仕方が無いと腹を括って織間の子として歩樹を産んだ。 『でも、信じて貰えないと思うけど、愛情はちゃんとあったのよ』  例え不倫だったとはいえ、好きで付き合った相手の子だ。  日に日に大きくなる腹に、驚くほど自然に愛が芽生えたのだと母は言った。  母性がどういうものなのかなんて男の歩樹には分からない。だけど、真剣に話す母親が嘘を吐いているとは思えなかった。思いたく無かっただけかもしれないが。 『織間の子として育てていいと言うなら、そうしようって思った』  不倫相手はまだ若く、相手にとってはただの遊びだとちゃんと理解をしていたから。

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