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『あの時、貴方達と三人で頑張って生きて行こうって、思えるだけの強さがあったら』  涙ながらに話す母に、掛ける言葉も見当たらなかった。  正論や理想論だけで生きられるほど、人生はきっと甘くない。そして、犯してしまった過ちを、消し去ることも出来やしない。  加害者はどう取り繕ってみても所詮(しょせん)加害者でしかなく、被害者にとってみれば、何をどう言われようと受けた痛みは消えないのだ。 (結局、本人がそれを受け入れるか、忘れたふりをするか……だ)  綺麗事かもしれないが、前に進むにはそれしかない。  そう簡単には出来ないから、きっと楓は恨むことで均衡を保っているのだろう。  結局、気づいた祖母が父へと告げ、アルコール中毒だと診断されてしまった母は、そのまま遠く離れた病院に、半ば閉じ込められるように入院させられてしまう。  その後は、調査結果に書かれた通りで、親身になった医師のお陰で快方へと向かった母に、今度は一樹が一方的に離婚を叩きつけてきた。  親権は一樹へと譲り、子供逹とは会わないことが条件として提示されたが、当時の母はそれでもいいと思えるようになっていた。  どのみち、自分の犯した過ちは許されることではない。放置してきた子供達に今更合わせる顔もない。恨まれるのは仕方ない……と。 (きっと、それで良かった)  逃げる形になってしまったが、壊れてしまった母を見るよりずっといいと歩樹は思う。  確かに、幼少の頃は淋しい時期もあったけれど、大人になってしまった今、母が苦しむ顔を見るのは正直とても嫌だった。 (歯車が狂ってしまっただけで、本当に俺達を捨てたかった訳じゃない。だから……) 「あれ? 兄さん?」  急に背後から声がかかり、深い思考から呼び戻される。 「ああ、佑樹か。こんな時間にどうした? 学校は?」 「まだ夏休みだよ。兄さんこそこんなところでなにしてるの?」  珍しいこともあったものだ。生活リズムが違っているから、佑樹と偶然会うなんてことは全くと言っていいほど無かった。

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