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「俺は夜勤明け。見ての通りボケっとしてた」
「なにそれ、早く帰って寝ればいいのに」
笑う弟の姿が眩しい。
「佑樹こそ、こんなところでなにやってるんだ。亮は一緒じゃないのか?」
「それは……い、いつも一緒って訳じゃないよ!」
頬を膨らませ言い訳するから喧嘩したのだとすぐに分かった。あまりに分かりやすいその姿に、つい微笑みを浮かべてしまう。
「そうだよな。たまには別行動もするよな。じゃあ、久々に兄さんと飯食べ行くか。話、聞いてやるよ」
立ち上がりながらそう告げると、みるみる顔が赤くなるから可愛くて仕方がない。
「だから違うって。聞いて貰うような話はないから」
「はいはい、分かったよ。じゃあ兄さんの話を聞いて貰うから」
「……それなら行く」
強がりながらも嬉しそうな表情を見せる佑樹を見て、今まで心を支配していた鬱々とした感情が、ほんの少しだけ晴れた気がして、歩樹は小さく「ありがとう」と呟いた。
***
「で、どうして喧嘩なんかしたんだ?」
昼時を過ぎてしまったせいかファミレスはかなり空いていて、周りの席には人がいないから話をするには丁度いい。
「それより、兄さん逹こそ平気なの? この前喧嘩してたじゃん」
注文してからすぐに尋ねると、上手い具合に言い返されて、歩樹は内心辟易した。
「佑樹、お前大人になったな」
「誤魔化さないでよ」
誤魔化したのは自分の方だという事は既に棚上げらしい。
曖昧な笑みを唇に乗せてやり過ごそうと口を開けば、歩樹が言葉を紡ぐより早く佑樹がバチンと手を叩くから、突然の事に驚いてしまい呆気にとられて言葉に詰まった。
「ちょっ、いきなりどうしたんだ?」
思った以上に響いた音に、店員たちがこちら見る。視線だけで周りを見れば、数人しかいない客も伺うようにチラチラと見ていた。
「だってさ、兄さんのペースになっちゃいそうだったんだもん。ああいう顔をする時は、絶対嘘を吐くもんね」
「だからって……」
子供なのか大人なのか? まあ、どちらでもある年代だから、仕方ないのかもしれないけれど、出鼻を挫かれ頭の中が白くなったのは事実だから、佑樹の作戦は功を奏したと言えなくもないだろう。
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