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「お前、意外と良く見てるな」 「意外は余計だよ。俺、まだ兄さんから見たら子供だろうけど、兄さん達が喧嘩してるなら、どうにか力になりたい」 「喧嘩なんかしてないよ。ただ、意見が食い違っただけで本当になんでもないんだ」  きっと嘘だと言われるだろうが、他に答えようがない。元々これは喧嘩と呼べる代物なんかじゃないのだから。 「じゃあ聞くけどさ、あの時、楓兄さんが大学卒業して、家を出てった時、なにがあったの?」 「それは……」 「楓兄さん、お婆ちゃんが死んだ時にも結局帰って来なかった。兄さんとは仲良かった筈なのに、出てってから一回も兄さんから楓兄さんの名前聞かなかったから、変だと思ってたんだ。もしかして……俺の前でだけ仲良くしてた?」 「佑樹」  幼いとばかり思っていたが、良く見ていたと驚いた。だけど『そうだったんだ』と口に出すのは、あと少しだけ大人になってからにしたい。 「俺、ずっと兄さん達が羨ましかった。仲間に入れて欲しくって、早く大きくなりたいって思ってた。まだダメ? まだ子供だからってなにも教えてくれないの? 兄さんこんなにやつれて、公園で見かけた時、消えちゃうかと思った。俺、何分も見てたのに、全然気づいてくれないし……楓兄さんとなにかあったんじゃないなら、どうしてこんなになってるんだか教えてよ」  真剣な顔で言い募るから、胸の奥がツキリと痛んだ。消えるなんて大げさだし、きっと(はた)から見ても分からない程度の変化だと思うが、弟である彼にとっては大きな変化に見えるのだろう。 「佑樹を仲間外れにしたつもりはないよ。でも、言いたいことは分かるつもりだ。俺は、早く佑樹と酒でも飲めるようになりたいって、いつも思ってる。確かに五年前、色々あって楓と喧嘩別れみたくなった。で、もう戻らないと思ってたら、この前突然帰って来て、どう接したらいいか正直分からなくなった。多分、俺もアイツも昔のことを引き摺ってる部分があるんだ」  神妙な面持ちで頷く佑樹を正面から見つめ、歩樹は一つ頷き返す。

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