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「だけど、俺がそれをしたら……戻れなくなる。お前が背負う物が、もっと大きくなる。だから……」  肩が微かに震えだし、声は一旦そこで途切れた。出会った幼い子供の頃、大きく感じた彼の背中は、大人になった今では自分の腕にスッポリと納まってしまう。  決して小さな訳ではなく、楓が大きいだけなのだが、ここ数カ月で痩せた身体は、以前にも増して儚げに見えた。 「お前、言ってたろ。俺はなんでも完璧で、誰にでも平等だって。けど、そんな人間なんかいない。俺は、ただ……怖かったんだ。深く関わって、傷つくのが」 「歩樹」 「お前は……執着を履き違えてるだけだ。今ならまだ……」 「嘘吐くな」  言葉を遮り低く唸ると腕の中で身体が跳ねた。  背後から強く抱き締めながら、耳朶へカプリと咬みつけば……小さく喘ぐ歩樹のペニスが、掌の中で反応するのが伝わってきて胸が高鳴る。 「俺が本気だって分かってるんだろ。そうじゃなかったら……ただの執着と思ってるなら、戻れないなんて言わないよな」 「それはっ」 「さっきから、歩樹が俺を好きだって言ってるようにしか聞こえない。嫌いなら……はっきり言ってくれないと、勘違いするよ」  どちらにしても離さないと今は思っているけれど、気持ちを拒絶し続けられたら、いつかは開放する時がくると心の奥では分かっていた。  彼の幸せを願っていない訳ではない。  ただ……今はそれを分かっていても、掴んだ腕を離せない。だから、例え勘違いだとしても、僅かな嗚咽を漏らしはじめた彼の言動を、都合良く解釈したくなってしまう。 「……どうして、俺なんだ」 「分からない」  迷いを帯びた歩樹の声音に返事をしかけた楓だが、言葉を止め、一旦彼の身体を離して起き上がった。

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