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 *** 「な……なにを」  起き上がった楓がそのまま歩樹の顔を覗き込むように、背後から覆い被さってくる。 「向かい合いたいって、歩樹が言ったんだろ」 「それは……」  確かにそう言ったけれど、今と先刻では状況が違う。頬を伝う涙を彼に見られたくなどなかったし、どう向き合えばいいのかさえも分からなくなってしまっていた。 (こんなに……脆かったなんて) 「泣くなよ」  掌で顔を隠そうとすると、手首を掴まれシーツの上へと仰向けに縫い止められる。 「見る……な」 「なんで?」 「こんな、情けない」 「情けない姿なんて、何回も晒してるだろ」  真っ直ぐ自分を見下ろしてくる楓の瞳を直視出来ずに、顔を背けて瞼を閉じると耳に唇が触れてきた。 「んっ……」  耳朶をペロリと舌で舐め上げ甘噛みしながら小さな声で、「こっちを向けよ」と告げてくるけれど、歩樹は小さく首を振る。 「ずっと、自分の気持ちを認めるのが怖かった。弟としか見てくれてないって思ってた。なあ、兄さんの本当の気持ち、教えてよ。どうして泣いてるの? さっきの言葉は本当なの?」 「言える訳……ないだろ」  それが狡い答えなのは、歩樹にも良く分かっていた。これではそうだと認めているのと結局のところ同じことだ。 「分かった。なら聞かない」  こちらの気持ちを察したように囁く楓の低い声に、また涙が出そうになるが唇を噛んで我慢した。 「でも俺、勘違いするって決めたから。兄さんも、俺のこと好きだって」 「かえ……」  頬にポタリと雫が落ち、思わず向けた視線の先に見えた楓の表情に……歩樹はコクリと息を飲む。  そこに居るのは紛れもなく、逞しい体躯をした大人なのに、静かに涙を流す姿が、まだ幼い頃の楓と重なった。 (不安……なのか?)  分かっていると言いながら、離さないと豪語しながらも、楓はきっと心の中で強い不安と対峙している。そしてそれは、今までの彼の行為に全て表れていた。 「楓」  名を呼んでから腕を伸ばし、背中にそっと指を這わせると楓の身体が小さく震えた。そのまま腕へと力を込め、胸の中へと彼を抱き込む。

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