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 *** 「あっ、うっ……ん」  時間をかけ、舌を使って乳首を愛撫していた楓が、顔を上げて歩樹を見ると、蕩けたような表情をして唇を薄く開いていた。 「歩樹、気持ち悦い?」 「はっ……あぁっ」  芯を持った二つの尖りを親指の腹で捏ねてやると、まるでそこがスイッチみたいにビクリビクリと体が跳ねる。 「隠しちゃ駄目だよ」  顔を隠そうと動いた手首を掴んで指をペロリと舐め、唇を口で塞ごうとすると、小さく何かを口走ったから楓は動きを一旦止めた。 「なに?」 「……しく…するな」 「え?」  見る見る内に赤く染まった顔が少しだけ泣きそうに歪む。 「優しく……するな」 「なんで? 歩樹は酷くされるのが好き?」 「そうじゃない。けど……んぅっ」 『馴れない』と紡いだ口をたまらず自分のそれで塞ぎ、わざとチュクチュクと音を立てながら舌を吸い、唾液を啜った。応えるように蠢く舌は、教え込まれた条件反射か、彼の気持ちからくるものか。 (優しく……したいんだ)  抑えられない劣情をただぶつけるだけの行為ではなく、感情をさらけ出した今、大事にしたいと素直に思える。 「やっ、あ……楓」  長いキスが終わった後、下肢へと指を這わせていくと、逃げようとした歩樹のペニスを楓は軽く握り込んだ。 「逃げるな。一緒に居るって言ったろ」 「あ……あぁっ」  尿道口を拓くように、親指の爪を食い込ませれば、腰を浮かせて喘いだ歩樹が『怖い』とポツリ呟いた。 「怖くない。分からなくなっていい……だから、俺から逃げるな」  何が怖いかは分かっている。  これからは、強制的な行為だったという言い訳が出来なくなる。歩樹の真面目な気質からすれば、かなりの負担になるだろうし、覚悟だって必要だ。 「背負わなくていいから……俺が、歩樹の分まで背負うから」  薄紅(うすくれない)に色づいた目尻に口づけながら囁くと、新たな涙が次々溢れ、それは静かに頬を伝った。

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