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エピローグ
エピローグ
「……寒いな」
季節は冬。仕事を終え、いつものように駐輪場へと向かっていると、途中に見知った人物がいて歩樹はそこで歩みを止めた。
「今日は安静だったみたいだね」
「ああ、急患はでなかったから、多分呼び出しも無いと思う」
時刻は八時を回っていたが、明日は非番になっているから、久しぶりにゆっくり過ごせる休日になりそうだ。
「待ってたのか?」
「ああ、ちょっとね」
曖昧な言葉を返した楓に近づき顔を見ると、鼻の頭が僅かに赤いから結構な時間待ったのだろう。
「中に入ればよかったのに」
「いるのがバレたら絶対仕事させられるから、嫌なんだよ」
おどけたように笑う楓につられて歩樹が微笑むと、「帰ろう」と、言った彼が背中を向けて歩きだした。
「ちょっと待て」
一瞬だけ自転車の方へ視線を向けた歩樹だが、楓が徒歩で来たことを悟り、慌てて彼の後を追う。一緒に暮らして随分経つが、勤務状況が違っているからいつもバラバラに出勤していて、今日みたいに迎えに来たのは初めてだから驚いた。
大体、こんな事をしなくたって家に帰れば会えるのに。
「夕飯、まだだったら飲みにでも行くか?」
「今日はいいや。家に準備してあるし」
「そうか。いつもありがとう」
「お互い様だろ」
暮らす内、時間に余裕ができた方が家事をすることになったけれど、現在のところ楓ばかりにさせている状況だ。
「楓、あのさ……」
「ん……なに?」
「今日は……」
勇気を出して息を吸い込むが、言葉は喉に引っかかる。
「ん?」
「ちょっと、寄っていこう」
歩樹は楓の肘を掴み、通り道にある公園の中に彼を引っ張って足を踏み入れた。
「今日は……どうして迎えに来たんだ?」
「え? ああ、クリスマスだから、なんとなく早く会いたくて」
「そうか」
「歩樹は興味なさそうだし、俺もそうだったんだけど……街に出たら空気に呑まれてケーキまで用意しちゃったよ」
だから、早く帰ろうと言われた歩樹はこらえきれずに吹き出した。
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