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「お前、子供みたい」 「そういう歩樹だって、帰ってあのケーキ見たら、子供みたいに喜ぶって」 「それはないよ」  笑いながら反論すれば、フワリと掌が頭に置かれ、近づいてきた楓の顔に、キスをするのだと思った歩樹は瞼を閉じて受け入れる。  今日は、クリスマスイヴ。  興味がないと思ったなどと楓に言われてしまったが、いくら仕事が忙しくても、それくらいは分かっているし、楓の休みも知っていたから、歩樹は今日……迷い続けていることに、終止符を打とうと決めていた。  ようやく、その覚悟ができたのだ。 (記念日に、(こだわ)るつもりもないけど) 「歩樹、行こう。あんまりじっとしてたら風邪ひく」 「ああ」 「どうした?」  答えたものの、動きださない歩樹を不審に思ったようで、振り返った楓が顔を覗き込むようにして尋ねてくる。 「あのさ、俺……俺は、楓のこと……」 「なに?」 「ずっと、考えてた。時間がかかってごめん。お前だけに背負わせるんじゃなくて、俺も一緒に背負いたい。臆病で、先回りして考えすぎて、お前の……楓のためにはどうすればいいかっていくら悩んでも、他の結論がでなかった。最初から、答えは決まってたのに、認めるのが怖かったんだ。けど、もう覚悟は決まった。俺はもう……この気持ちから逃げない。だから言わせて欲しい。俺は、楓が……」 『好きだ』の形に動いた口は、次の言葉を紡ぐ寸前に楓の唇で塞がれた。  それは、短い時間の触れ合いだったが、触れた場所から彼の気持ちが痛いくらいに伝わってきて、歩樹の心はこれまでにない幸福感に包まれる。 「帰ろう」 「ああ」  差し出された掌を掴んで歩樹がギュッと握り返せば、照れたような表情をした楓の頬が色づいているのが見てとれる。 「ありがとう」  顔を背けた楓の声は少し震えていたけれど、歩樹はそれに気づかぬふりをして「待たせてごめん」と囁いた。  まだ秘密も不安もあるが、言葉で気持ちを紡げただけで、立ち止まっていた今までよりも幾らか前に進めた気がする。 「あ」  強い北風が吹いてきた刹那、風花(かざはな)がヒラリと宙を舞う。 「綺麗だ」  小さな声で呟きながら、冷えた空へと視線を上げれば、振り返った楓が歩樹の頬へとそっと触れてきた。  その掌のぬくもりが、優しくてなんだか泣きたくなる。 「寒くなってきた。早く帰って温まろう」 「そうだな」   風が強くなってきたから、明日は雪になるかもしれない。そうなったら、いつもとは違う街の景色を二人でのんびり眺めよう。  まるで、淡い桜の花びらのように夜の闇へと舞う白の中、手を繋いだ二人は確かな足どりで家路についた。                               END ありがとうございました。 次のページから番外編です。 小此木雪花

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