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 ***  完全に、見透かされてしまっている。  それが分かっていても尚、折れる事は出来ないのだ。 「あっ……うぅっ!」  抱き潰すとの宣言通り、楓の行為は執拗だった。何度も中へと彼の精液を受け止めながらも歩樹自身は射精を許されず、ドライオーガズムの波に飲まれ喘ぎを上げて快感に震える。 「も……やめろ」  だから、ようやく口枷を外された時、歩樹は息も絶え絶えだった。 「まだそんな事が言えるんだ。違うだろ?先ずは俺に“ゴメンナサイ”……だ」 「……それは、できない」  そこだけは曲げられない。  長兄としてもそうだけれど、楓と共に生きていくと決めたから、絶対に謝らない。  快楽に溺れてしまえば楽なのは知っている。  そうやって逃げ道を作ってくれているのも分かるけれど、今、歩樹が求めているのはそんな単純なものではなくて。 「なら、言わせるまでだ」 「アッ…アウゥッ!」  引き抜かれたペニスの代わりに太い玩具を捩じ込まれ、外に飛び出てしまわぬように布テープで固定される。  それから……取り出してきたロープで左右の膝をそれぞれ縛られて、脚を閉じる事が出来ぬようベッドヘッドのポールに結ばれた。 「腕、痛い?」 「……」  体の下へと入ってしまった腕が痺れて痛いけれど、歩樹は睨み返すだけで言葉を発する事をしない。 「返事は?」  再度質問されるけれどそれも無視して見つめ続ける。さっき楓が言った通り、歩樹は罰を受たかった。  それを知っていてもなお、狡いと言わない楓の方が歩樹の数倍度量(どりょう)が大きい。 「どうしてそんなに頑なかなぁ」 「うっ……くぅっ」  バイブが突然振動を始め、呻いた歩樹は歯を食いしばる。 「こっちも」 「ぐぅっ……うぅっ!」  ブジーも細かく動き始め、前と後ろを同時に襲った強い愉悦に、歩樹の体が大きく跳ねた。 「ちょっと休憩してくる」 「んくぅ……」  立ち上がった楓が屈んで唇に軽くキスを落とし、「反省してろ」と言い残してから、こちらに背を向けドアへと向かう。 「あっ……あぅっ」 “行くな”と縋りたかったけど、それも歩樹には出来なかった。  元々、人に甘えるのは得意じゃない。 ――だって、しょうがないじゃないか。  自分と父には血の繋がりが全く無い。経営者としての才幹も楓の方が秀でている。  なにより……父親だって心の中では彼が継ぐことを望んでいる。  ならばそうした方がいい。  勿論、織間の慣例に従って、歩樹が病院の後継者となり、楓の傀儡(かいらい)になれと言われれば従うが……どちらにしても、自分じゃ無くていいという意思表示だけはしておきたかった。 ――結婚……だって。  どちらかがしなければならないと言うのなら、長男である自分がする。  楓一人に背負わせる訳に行かない……と、思う気持ちもありはするが、本音は他の所にあった。  田舎では、些細な事が噂を呼び、いわれのない憶測が事実とは別に出回ってしまう。  楓は考え過ぎだと言うが、いい年をした男二人が兄弟で住んでいるだけで、好奇の目を向けられたとしてもおかしくない。  その辺りを考慮して、それとなく一人暮らしをしろと父も告げてきたのだろう。 ――楓が……するくらいなら。

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