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第6話
カップをテーブルに置けばゆっくりと鷹野は立ち上がり、足立も慌ててカップを置き立ち上がる。
「さて、そろそろ部屋に戻るわ。茶、ご馳走さん」
「ううん、気にしないで」
その言葉に甘えてゆっくりと頷き玄関へと歩を進ませて行けば、後ろから足立が着いて来た。履いてきたクロックスにそのまま足を入れて相手に向かい合い見下ろしては、少し距離を置き背を丸めてまた視線を合わせる。
「今度はウチに来いよ。飯でも作ってやるから」
「いいの?行くっ!」
両手を握りしめそれを胸に当てながら必死に願望を伝えてくる姿はまるで何かを期待する子供のようで可愛らしく見えた。思わず鷹野は指背で白い頬から輪郭を撫で下ろし目を細めるとぱちぱちと瞬いた後にまたへらっと足立が笑う。
「鷹野サンっていつなら居るの?教えておいて」
「土日は休みだから用事がなきゃいつでも。平日は夕方17時半には帰ってるから……って、連絡先交換すりゃいいんじゃねぇの」
「えっ?いいの…?」
鷹野がスマホを徐ろに取り出せばその後を追うように足立もスマホを取りにリビングへ小走りで行く。その間に鷹野は画面を見遣りその上に親指を滑らせアプリを起動させた。足立が慌てて戻って来れば両手で持ちながら親指を画面に滑らせアプリを起動させると、鷹野がQRコードを読み取るカメラを向けてくる。足立はそれに従い連絡先を繋ぐQRコードを鷹野に向けて見せた。それを読み取りアプリが連絡先を表示し、画面を足立に向けると合ってるかどうかを確かめる。頷いて合ってると伝えれば鷹野は登録した連絡先へ念の為「こんにちは」とだけメッセージを一つ送った。足立のスマホが震えてメッセージが来た事を伝えると中身を確認してくすりと笑う。
「えへ、交換出来たね」
「あぁ。いつでも連絡して来い。返信が溜まる程交換してる奴も居ねぇし、返せる時には返す」
足立は再びぱちぱちと瞬きを繰り返すと眉尻を下げながら鷹野を見上げて来た。すると顔は向いているものの視線を斜め下気味に逸らしながら言葉を送る。
「う、うん。でもそんな事言われると、俺暇な時は本当に暇だから甘えちゃうよ?」
「甘えろよ。その時俺も暇なら全部受け止めてやるから」
その言葉を聞くなり視線を鷹野に戻し瞠目するも、次第に恨めしそうな目で見つめては再び先程の言葉を出してきた。
「……絶対鷹野サンってタラシだ」
「受け止められたくねぇなら別に構わね…」
「やだぁー!!受け止めてよっ!」
足立はふるふると首を振りながら必死に泣き声に近い声を上げる。それを見遣れば鷹野はくつくつと喉奥で笑いを響かせながら大きな手を伸ばしてそっと掌を頭頂に置きゆったりと撫でてやった。すると次第に笑みに変わっていく。鷹野はそれだけで足立が嬉しそうに笑うのをもう分かってしまったのだ。素直に懐いて来る足立を可愛いとさえ思っていた。
「じゃあ、またな」
「うん、ありがと」
鷹野が軽く片手を上げれば足立は片手を胸元辺りまで上げて振る。ドアを開き外へと出ればゆっくりとそれを閉じる。その際に見える顔が至極寂しそうな色を滲ませていた。そんな足立の表情には、酷く可愛らしいと思ってしまった。
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