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十
一ノ瀬優斗
さっきは怒鳴りすぎただろうか。頬を叩く必要なんてなかったのに、つい叩いてしまった。痛かっただろうか。痛かったに決まってる。
「優斗…?」
「光…。光は大丈夫?夢に言われた事は気にしなくていいと思うよ。たぶん夢は疲れていたんだよ。」
「うん、分かってる。でも、たぶんあれは夢の本心だったんだと思うんだ。僕さ、双子だから夢のこと何でも知ってる気でいた。でも、そんな事なくて、夢のこと全然知ってあげられていなかったんだね。まさか、夢があんなこと思ってるなんて思ってもみなかったな。」
「俺もだよ。俺も…だよ。」
違うんだ。
たぶん、きっと。
俺のせいだ。
俺は夢を光の身代わりにした。
夢は夢は自分自身を愛して欲しかったのに、光として俺は扱ってしまった。
俺は最低だ。
「夢は勘違いしてる。父さんも母さんも僕ばっかり好きなわけじゃないんだよ。夢のこともちゃんと見てるんだ。
でも、僕ってほら分かりやすいでしょ?父さんも母さんも僕が扱いやすかったから構ってただけなんだ。
夢はね、昔はもっと静かな子だったの。自分をあんまり出さないタイプってやつでさ。だから、夢にしたら父さんと母さんが僕にばっかり構ってるように見えたのかもしれない。
でもそれも昔の話でさ、小学校の高学年くらいにはもう今の夢だったんだよ。それからは平等に育てられてたのになぁ。」
「そっか。夢にちゃんと説明してあげないとね。」
「うん。仲直り、してくる。きっと今は泣いてるだろうから。」
「俺も行くよ。叩いたこと謝らないと。」
「そうだね。」
光と一緒に夢の部屋を訪ねる。その間、夢の話をたくさんした。切ないくらい俺の知らない話ばかりでなんだか凄く虚しかった。
「ここだよ。」
光は当たり前のように寮の鍵を開けた。夢と光は鍵を交換しあってるらしい。
広い室内。ただシャワー音が静かに聞こえてきた。
「夢、お風呂かな?」
「疲れてたしそうかもしれない。」
「優斗はここで待ってて。僕、夢に話しかけてみる。」
せっせっと、風呂場に向かう光は少し緊張気味だ。
双子の喧嘩。
もしかしたら初めてなのかもしれない。いつも、夢は光に合わせているような感じがするしな。
「夢、あのね、あのね。」
光が夢に話しかける声が聞こえる。
これでまた2人の仲が深まればいい。
「夢?返事してよ…。開けるよ?…えっ、あ、あ、ぁぁ、ぁぁぁぁぁぁあ。」
光の叫び声に嫌な予感がして風呂場に飛び込む。
「光、どうした…。えっ…?」
血に染まった風呂場。
その中で夢は静かに眠っていた。
「夢、夢っ‼︎」
急いで夢を風呂場から出す。息はまだしている。ただ出血多量なのはよく分かる。
「光‼︎光‼︎しっかりして。保険医に電話‼︎光‼︎」
顔面蒼白の光に呼びかけ、どうにか保険医に電話してもらう。
その間俺は夢の応急処置をする。
夢、夢。
どうして。どうしてこんなこと…。
なんで、どうして。
頼むから目を覚ましてくれ。
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