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十三
半年が経った。
夢はまだ目を覚さない。
光は以前の明るさを失い、だんだんと窶れてきている。俺は目覚めない夢の病室に毎日通っていた。何も出来ない自分に酷く落胆しながら。
「夢、今日から新学期が始まったよ。夢が目を覚ましたらたくさん遊びに行きたいな。…笹舟が別荘を持ってるらしいんだ。みんなで笹舟の別荘に行って沢山遊びたいね。…お祭りも旅行も夢が望むんだったらどこにだってついて行くから。だから、早く目を覚ましてよ。」
夢の白い手を握りしめても反応はない。
いつも通り眠っている。
このままずっと目を覚さないのかもしれない。
「夢、花生けてくるね。」
嫌な考えを振り払うように花瓶と花を持って病室から出た。
精神的問題、いつでも目を覚ましてもおかしくは無い、医者にできることはもう無い、俺に出来ることも。
「夢…。」
花を生けた花瓶を持って再度病室に戻る。
カタン。
物が落ちる音が聞こえた。
光、今日はお見舞いに行けないって言ってなかったか…?
それとも他のやつか?
不思議に思いながら病室の扉を開けた。
持っている花瓶がガシャンと割れる。
跳ねた水が足にかかる。
でも、そんなこと気にならなかった。
「ゆ、夢…?」
ベッドから身体を起こす夢の姿。開くことのなかった瞳がこちらをジッと見つめている。
「夢、夢‼︎よかった、良かった!目が覚めたんだ…。」
「だ…れ?」
「えっ…。ゆ、め?」
「誰…?ここ、どこ?ねぇ、光はどこにいるの?」
「夢…。」
紛れもない記憶喪失。
医者の診断がなくともそれは読み取れた。
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