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十五
公園のベンチ。
光が落ち着きを取り戻したのを確認して、冷たいお茶を手渡した。
「あり、がとう。」
「それで、なにがあったの?」
「…さっきまで父さんと母さんとでお見舞いに行ってたの。それで、母さんが退院したら美味しいものを食べに行こうって話になって。夢は何が食べたいって聞いたらお魚って。夢の好物はお肉料理だと思ってたから唐揚げじゃなくていいの?って母さんが聞いたんだ。そしたら、お肉は苦手だって。」
「単純に気分じゃなかったんじゃ…。それに記憶をなくしてるからかもしれないよ。」
「そう思って、父さんが夢が好きなもの聞いて行ったんだ。そしたら、そしたら…。」
ああ、夢が好きだったものは全て光が好きなものだったんだ。
好きなものも嫌いなものも、性格すらも光に寄せていたんだ。
「母さん、それ聞いて泣き出しちゃって。夢のこと何も知らなかったんだって、親なのにって。僕もさ、なんか双子なのになんでって思った。誰よりも通じ合って分かり合って2人で生きてきたのに、それなのに片方はただ合わせてるだけだったなんてそんなの馬鹿みたいじゃないか‼︎ってさ。」
「夢…。」
「っていうか、馬鹿なのは僕だけだ。だって知ってた。夢が昔は内気な子だったってこと。昔はこんなに無理して笑う子じゃなかったって。知ってて…。でも夢が笑うの好きで僕とたくさんお話ししてくれるのが好きで、それで夢はこれでいいってこれがいいって思った。夢はただ僕に合わせてただけなのに…。」
誰が悪いって誰も悪くない。夢は光みたいになりたかっただけ。目に見えて愛される光になりきれば自分も愛されるのだと考えただけ。
俺はそんな健気な夢を光の代わりに抱いた。俺は最低だな。夢に関われば関わるほど、俺は己自身が犯した罪に苛まれる。自業自得だ。
「俺たちは夢を見ているつもりで何も見ていなかったんだな。」
「優斗…?」
「しみじみ思うよ。夢と光は全然違う。姿形は似ていてもどこか違ってた。俺たちは知ってた。でも、それは光かそうじゃないか…でだ。」
「…っ。なんで、なんで?僕、なんで、否定できないんだ。そんな酷いこと考えてたのって。責めたいのに。みんなを責めたいのに。でも、だって僕はそれを知っていた。」
「光、これからまた作り直そう。最低だなんだって口だけ言うのは簡単だ。俺は、決めたよ。夢を支える。記憶が戻っても戻らなくてもずっと。」
ただの償いか。
ただの同情か。
自分でもよく分からない。
他のやつになんと言われても俺は否定しないしできないし。でも、それでも俺は夢を支えたいと思った。
今度は本当の笑顔で軽口が言えるようになりたい。
「僕も!僕もするし。だって夢とは双子だもん。夢のお兄ちゃんだもん。夢が大好きだもん。」
「そう。なら夢を一緒に支えよう。」
俺たちは約束した。
自分勝手で回っていた世界をねじ曲げて、今度は人の為にと無理していた夢を支えて守る事を。
夢、今度は俺がお前を支えたい。
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