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十六
病室のドアを開けると夢は窓の外を見ていた。どこかつまらなそうな顔をしている。
「誰?」
「目が覚めたとき会ったんだけど覚えてないかな?」
「あっ、ああ。あの時の。」
あの時はだいぶ困惑していたけど、今は落ち着いているよう。
「俺の名前は一ノ瀬優斗。夢の、友達だったんだ。」
「友達?光のじゃなくて?」
「…夢のだよ。俺は光じゃなくて夢の友達になりたいんだ。」
「…なにそれ。」
「ごめん、ちょっと感情昂ってしまったね。そうだ。夢、お見舞いに花束を持ってきたんだ。」
「花?」
「夢は好き?花。」
「うん、花は好き。」
「そっか。それなら良かった。」
花を花瓶に入れ替える。
何が好きなのか何が嫌いなのかまだ全然知らない。でも、本来ならそれを一つずつ知っていくものだ。何も焦る事はない。
「いつ退院か決まったの?」
「まだ。精神的な問題もあるし、リハビリもしないといけない。」
「なら5月前には退院できないか。」
「なんで?」
「知り合いに別荘を持ってる人がいるんだ。森の中で川も流れて気持ちがいいらしい。夢と一緒に行きたいなって思ったんだ。まぁ、夏休み期間もあるし問題はないけど。それだともう少し時間がかかりそうだね。」
「川…。行きたい。お母さんに聞いてみる。」
少しだけ目を輝かせた夢。その表情から行きたいのだと伝わってきた。
「でも、リハビリ終わらないと泳げないし、やっぱり夏休みになってからの方が…。」
「泳がなくていい。川が流れる音が好きなんだ。だから、その別荘に行ってみたい。だめ…かな?」
「もちろん、俺はいいよ。その代わり、ちゃんと両親とお医者さんの許可を取ってからね。」
元気よく頷いた夢は少しだけ表情が緩んでいた。
なんだ、表情がなくなったって嘘じゃないか。
こんなにも分かりやすい。
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