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二十
用意してもらった椅子に座り、風に揺られながら目を瞑る。
川のせせらぎ。
遠くから聞こえるセミの声。
光達の楽しそうな笑い声。
ああ、この瞬間が好きだ。
「夢?」
「一ノ瀬君?」
「ああ、ごめんね。寝てたかな?」
「ううん。大丈夫。」
「やけに気持ち良さそうだったね。」
「うん。」
この空間が好きだ。自然に身を任せて、ただ1人幸せの時を噛みしめる。
「水に入れなくて残念だったね。また、今度来よう。」
「別に、残念なんかじゃない。たぶん、いつ来ても僕はきっと、こうしてゆっくりとした時を過ごしたいから。」
「…そっか。」
一ノ瀬君は目を伏せて笑う。何か、不味いことを言っただろうか。
「あっ、そう言えば、笹舟に下まで下ろして貰ったんだろ?大丈夫だった?」
「そう言えば、なんとも無い。」
掌を見つめる。
いつもなら男の人が触れた途端に手を振り解くのに。
彼を怖いと感じなかった。
何故だろう…。
悪意を感じなかったから?
「いいことだよ。これから少しずつ慣れていこう。大丈夫。怖いことなんて何もない。」
「うん。」
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