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二十七

一通りの学校案内、夢の部屋も見せた。 夢の部屋は定期的に掃除をしている。 特に光が積極的に。 もしも夢が自分の部屋を見たときに汚かったら可哀想だから。 そう言って、掃除をしていた。 「部屋、綺麗だね。」 「光に言ったら喜ぶよ。」 「うん。後で伝えるよ。」 夢の横顔は変わらず穏やかで、取り乱すことはなかった。 もしかしたら、泣き叫ぶんじゃないか。 記憶を戻して、困惑して、また自分を殺めるのではないか。 そんな想像も杞憂で終わった。 夢は終始、穏やかだったのだ。 部屋を見て、お風呂場を覗いても、特に乱れることはない。 夢が耐え切れず声を荒げた廊下を通っても、平然としていた。 まるで全てを知っていて、受け入れているのではないかと思うくらい…。 夢は落ち着いていた。 俺は夢が取り乱さなかったことに、心底ホッとした。でも、その反面、俺がしてやれる事は何もないのだと突きつけられ、情けない気持ちになった。 最後に夢は桜並木の下に行こうと言った。 この時期に桜は咲いていない。 それでも行きたいと言った夢に俺は頷いた。

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