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二十八
桜並木の下。
手を広げて、夢は踊るようにステップを踏む。
偉く上機嫌だ。
「夢?」
「ねぇ、いちくん。僕らが初めてあったのはここだったんだよ。」
「えっ?」
今、いちくんって…。
「僕、入学式でここで転けたんだ。一人で歩いてて、普通に滑って転んで。誰も助けてくれなくて、痛くて、辛くて、何より恥ずかしかった。光だったら誰かが手を差し伸べてくれてたのかとも思った。涙が出そうになった時、いちくんが助けてくれたんだ。手を差し伸べて、僕の手を握ってくれた。嬉しかったなぁ。」
「待って、夢。もしかして、記憶…。」
「うん、ごめん。本当はね、ここに来る少し前から戻ってたんだ。いや、鮮明に完全に思い出したのは寮で自分の部屋見たときだったけど。みんなで、川に行ったときにね、薄らと。」
「なんで、言ってくれなかったの…?」
「うーん、最後ぐらいデートしてみたかったからかな。」
最後って、どういう…。
「僕ね、海外に行くことにしたんだぁ。」
「海外?なんで!」
「自分をもう一度見つめ直したかったからかな。今まで、何をするにも光がいた。それは仕方がないし、しょうがない。
でも、光の存在は僕に言い訳を与えてしまっていた。
僕が愛されないのは光のせい。
僕が一人なのは光のせい。
全部、全部、光のせい!ってね。
でも違う。
僕は努力を怠った。
光の真似っこをして、僕は自分から世界を拒否した。
ずっと一人だったのは、愛されないと思っていたのは、僕が誰も信用してなかったからだった。
本当は、いたのに。
僕自身を見ようとしてくれた人。
だからね、海外に行って、光のいない知らない世界に行って、それで自分を見つめ直そうと思ったんだ。」
急すぎる。
あまりに突然だ。
それでも、夢の目は揺らがない。
ああ、俺が止めても行ってしまうんだ。
「いちくん、もういいよ。もういいんだ。もう、死のうなんて思わない。だからね、いちくん。光のところに行っていいよ。」
「えっ…?」
「僕ね、いちくんが好きだった。好きだったんだよ。でもね、諦めた。もう叶わない夢は見ない。最後にデート出来て嬉しかった。諦めるきっかけが出来た。ありがとう、いちくん。いちくん、いちくん。好きだったよ。大好きだったよ。さよなら。」
そうやって笑った夢の顔は涙が滲んでよく見えなかった。
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