サーっと風が通り抜ける。 僕といちくん。 最後に会ったあの日みたいだ。 「いちくん、僕元気になったよ。」 「うん。」 「…2年の間で死のうなんて考えなくなったよ。」 「うん。」 「いちくん、もう僕のこと気にしなくて大丈夫だよ。そもそもいちくんが僕に気を使う必要なんてなかったんだ。あの時だって、いちくんは何も悪くなかった。だからさ、いちくんはもう僕を気にしなくていいんだ。」 たぶんいちくんは僕のせいで色々と諦めてきたんだと思う。光のことだって、僕のことがなければ結果はどうあれ、告白はできていただろう。 「初めは同情だったと思うんだ。」 「えっ？」 急な言葉に顔を上げる。 「夢に対して同情していた。そして、傷つけたことへの後悔と懺悔の念で一杯だった。記憶をなくなった後もなくなる前もずっとずっと俺は夢に対してそんな感情で溢れていた。 だけど、夢と過ごす時間はいつだって温かくて安心できた。夢とい続けて、俺はどうしようもなく愛しい気持ちで溢れていってしまった。 夢。 俺は、俺は…、夢が好きなんだ。」 す、き？ 「なんで…。だって、いちくんは光のことが好きなんでしょ？もう、僕は光の身代わりなんて嫌だよ。僕はせっかく夢になれたんだ。本当の自分に戻れたんだ。もう、光の、誰かの身代わりになんてなりたくないよ。」 「夢…。ねぇ、夢。俺は夢の笑った顔が好きなんだ。ふとした瞬間に見せる笑顔。優しい夢も好き。辛い時、何でも背負い込んで、誰かのせいにしたいのに出来ない優しいところ。」 「…。」 「最低だと思う。光を好きだって言って、結局俺は夢のこと好きになって。身代わりだって言われても仕方がないし、自業自得だとも思う。でもね、夢。俺はもう溢れるくらい夢が好きで好きで堪らなくなってしまった。ユーリに死ぬほど嫉妬したよ。夢を渡したくなかった。光じゃない。夢を、俺は幸せにしたい。夢と一緒に歩んでいきたい。」 なんだ、それ。 なんだ、これ。 夢見てるんじゃないかな。 夢だけに夢を見る？ 全く面白くないよ。 現実か…。 現実だよね。 だってこんなにドキドキいってる。 心臓が死ぬほどドキドキなってる。 身代わりじゃない。 僕を好きって。 そう、言ってる。 「好きな人出来たって言ってた。」 「夢のことだよ。」 「光のことはもういいの？」 「光のことは2年前に、それこそ夢が記憶を無くす前から諦めてるし、恋愛感情も抱いてない。」 「僕は光じゃないよ？光みたいに可愛くない。汚れてもいる。綺麗な僕じゃない。」 「俺は今、夢に言ってる。それに、汚くないよ。夢はいつだって綺麗で可愛い。」 「同情じゃいやだ。」 「同情はしている。でも、同情って理由だけじゃ表し切れないほど夢を愛してる。」 「僕は、好きでいていいの、また、僕はいちくんを好きになっていいの。好きなままで、諦めなくて、いいの？」 「俺は夢に好かれたら、これ程嬉しいことはない。」 暗く、底の見えない濁ったままの空が、 明るく、輝いた気がした。 「好きです。好きです。ずっと、ずっと好きだった。」 「夢、俺も愛してる。」 抱き締められて、涙が溢れ出た。 いつだって望んでいた言葉。 欲していた言葉。 誰よりもなによりも好きだった人からの愛しい言葉。 見つめ合った瞬間、引き付けられるようにキスをした。温かくて、愛しくて、満たされる。触れるだけのキス。 「愛してる。」