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番外編①
カイ
振られた。
光に振られた。
広がる虚無感。
わからねぇ。
わからねぇ。
なんで俺は振られた?
なんで俺が振られる?
わからねぇ、だからむしゃくしゃした。
「あいつ…。」
目の前で光によく似た男が歩いていた。2年前にこの地をたった筈の男だ。俺は無意識にそいつに近づいた。そして、胸ぐらを掴んだ。
「てめぇ、光に余計なこと言ったんだろ。」
突然の出来事で戸惑っているのか、何も言ってこない。それがまたムカついた。
「なんとか、言えよ。夢。」
「カイ君…。」
ああ、ぶん殴りたくなる。こいつを見ていると怒りが増す。
「お前のせいで、俺は!」
「振られた?」
「てめぇ!」
「僕は何も言ってないよ。何も言ってない。」
ジッとこっちを見てくる。なんだ、こいつ。前は反論なんてしてこなかったくせに。
「ねぇ、カイ君。僕が教えてあげようか。光に振られた理由をさ。」
「なんだと。」
「僕は曲がりなりにも光と双子だよ。わかるよ、光の気持ち。」
掴んでいた胸ぐらを離す。ケホケホと咳づいた夢は息を整えると共にこちらを再度見つめた。
「光はね、僕が好きなんだよ。愛してる。僕も光を愛してる。相思相愛だよ。」
「何がいいたい。」
「…。カイ君だって大事なものが傷ついたら嫌でしょう?カイ君はね、光の大事なものを傷つけたんだよ。だから振られたんだよ。」
「っんだと!」
「僕は光には何も言ってない。でも、光はたぶん無意識に気付いていたんだ。カイ君は自分の大事なものを傷つける存在だって。」
「違うっ!俺は、俺はあいつのために!」
「違くないよ。光はいつだって僕のことを大事にしててくれた。カイ君、カイ君はさ、光のこと本当に好きだったの?」
好きだった?
愛してた?
決まってる。
愛してる、
愛してる、
愛してる。
だからこんなに苛立っている。
無条件に愛されるこいつに苛立っている。
「俺は俺は…。」
「光は好きだったよ。カイ君のこと。大切な友人だったよ。でも、カイ君は信じられてなかったでしょ。振られて、恋愛対象だって見られなくて、それで終わりだ。もう後はない。違うよ。そうじゃないよ。だって友達だった。光はカイ君を友達だって、今でも大切な友達だって言ってたよ。」
「なんだよ、それ。俺にまだ光と友達でいろって言うのか。振られたままそのまま…。」
「離れるも離れないもカイ君が判断しないと。でも、僕にはカイ君が光と離れなくないって言っているように見えるよ。」
昔から不器用だなんだ言われて来た。光はそんな俺に手を差し伸べてくれた。光は俺の唯一だ。だから好きになった。
でも、あいつは笹舟を選んだ。
あいつは、笹舟がいいと言った。
俺はどこに行けばいい。光しか見えなかった俺は、何に縋ればいい。
「あいつ以外に誰がこんな俺を認めてくれるんだよ。」
「本当にそう思う?しゅーと君もいちくんも、とっくの昔にカイ君のこと認めてたと思うけど。それに、他のみんなだってそう。カイ君はただ自分で自分を追い込んでいるだけだよ。」
「なんだ、それ…。」
わからねぇ、わからねぇな。
「お前は、今光以外に認めて貰えたのか。」
「へ?…あっ、うん。家族も友達も、いちくんも僕を認めて、抱きしめてくれたよ。」
「そうか…。」
そうか、そうか。
こんなちっぽけで、光にばっかり嫉妬する夢は、前に向いて歩き出していたのか。
ああ、違う。
違うんだ。
夢を見ていて、こんなにも苛立っていたのは、まるで自分を見ているようだったからか。
「すまなかった。」
「え?」
「なんでもねえ。光には振られたけど、こんな魅力たっぷりの俺だ。すぐに次を見つけてやる。」
きょとんとした夢を置いて俺は家へと帰る。
俺も夢みたいに自分と向き合おう。
そして今度はちゃんも素直に謝ろう。
そしたらきっと…
また…
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