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ちょっと強気な子羊ちゃん4話

「何ば叫びよっとですか?」 「ひいい」 真後ろからの声掛けに悲鳴をあげるシンジ。振り向くと英じいがじっーと自分を見ている。 「な、なんでもないです」 「ストレスとかですかな?ストレスはためるといかんです」 何時も感じるのだが、この人は人の話聞かないよな?しかも、話を勝手に続ける。 「ストレスないですから大丈夫です!何しに来たんですか?」 コンビニなのだから買い物なんだろうけど、話を遮りたかった。 「パシリですばいー!」 そういうと手にしてるカゴにアイスをポイポイと入れていく。それとジュースも。 「それって幸太先輩ですか?」 「こいは茶髪のほうですばい」 その答えにシンジはドキッとする。茶髪は健太の方。 「こん人は金髪とちごうて、ワシの分もこうて良かっていうけん良か人です」 英じいはおにぎりもポイポイいれていく。結構な量を買い会計に行く。 「シンジくんは何も買わんとですか?」 「えっ?あ、買う……えーと、タバコ」 英じいの隣のレジで店員にタバコの銘柄を伝えるが「身分証明書は?」と聞かれた。 シンジは二十歳とは言っているが昨日今日、成人したような幼さが残る顔では未成年に間違われるのだ。 でも、面白いよなって思う。誕生日さえくれば昨日買えなかった酒やタバコが買えるのだから。 「俺、成人してますけど?」 「そん人、子供みたいばってん大人ですばい、なんかコナンくんみたいですねえ」 英じいはそう言って笑う。 英じいは常連のようで彼の一言で再度確認もなくタバコが買えた。 「先輩のおかげです」 2人でコンビニを出る。 「おかげとは?」 「いつも、何回か身分証明書ってしつこく言われるんですよ、でも、先輩が大人って言ってくれたんで1回で買えました」 ニコッと笑い、シンジは缶コーヒーを渡す。 「お礼です、いつもお世話になってるから」 「うほっ!!」 英じいは嬉しいと猿になる。シンジは笑う。 「なんばいいよっとですか!後輩ば指導するとは先輩の役目ですけん」 嬉しそうに缶コーヒーをポケットにしまう。 「また、後で飲むんですか?」 「仕事終わってから飲みますばい、風呂上がりに読むと最高ですけんね」 英じいはなんかいつも節約している。 「先輩はあまりお金使いませんよね?貯金してるんですか?」 「貧乏やけん……こん年やったら年金っちゅうとですかね?あれば貰えるとやろうけど、若っか時に払ろうとらんけん、そいもでらん……貯蓄ってやつですばい」 「年金って少ないんでしょ?この国ってお年寄りとか弱いものに冷たいですもんね」 シンジはそう言って先を歩く。 市役所の人は冷たかった。 祖母の家に居た時、祖母が年金じゃ2人暮らしていけないからって市役所に生活保護を受けさせて欲しいと言いに行った時、「2人じゃ暮らせないなら子供引き取らなきゃ良かったんじゃないですかね?」と言われた。 頭がおかしいんだと思った。 大人って嫌いだ。 ばあちゃんくらいだった。優しかったのは。 迷惑かけたくないから都会に出るって言ったら泣きながらクシャクシャになったお金を渡された。 必死に貯めてくれたお金。 それはお守りとしてまだ使っていない。いや、使えるわけがない。 「先輩、荷物、1個もちますよ」 振り返り、英じいの袋をひとつ持つ。 「おお!!シンジくんは良か子ですばい!あの金髪と茶髪に爪の垢ば煎じて飲ませんば」 「あはは、何言ってるんですか」 シンジは最近、英じいと一緒にいるのが楽しかった。 きっと、祖母を思い出すからだった。

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