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田中フルハウス 3話

「それより相撲取りの話、しょんしゃったでしょ?」 ヒデちゃんと呼ばれた老人は東雲と照哉が聞きたい答えを一切スルーして、質問をする。 「あー、相撲取りの話はしてないけど、うん、それより英雄さんバケツに何入れてるの?」 東雲はバケツにギュウギュウ詰められたら服らしき物が気になった。 「相撲取りの話しょんしゃったじゃなかですか?曙って」  ヒデちゃん、もとい英雄氏は東雲の質問をまたもやスルーする。 「違うよ。朝の呼び方。暁、東雲、曙って言うでしょ?」 照哉が説明する。 「あ~、そがんですか?相撲取りの話かと思うちょりました。」 「それよりヒデちゃん、バケツに入れてるの上着だよね?」 「そうです。」 曙の話が終わったので照哉の質問には答えてくれた。 「なんで入れてるの?」 「風呂敷ば無くしてしもうたとです。私物入れる物捜しよったら、ちょうど良かとのあったけん、入れたとです」 東雲の質問に答えた英雄氏は得意げにバケツの中身を2人に見せる。 確かに英雄氏はいつも風呂敷に私物を入れてくるのだが…言われてみたら、ずっとバケツを持っていたな。と2人は気付く。 「今日、ずっとバケツで行動してたん?」 そう聞く照哉はすでに笑いをこらえている。 「そうですばい。大事かもんは肌身話さず持っとかんばです」 照哉はこらえきれずに大笑いし出す。 東雲は何か思い出したようにパソコンを置いている机の引き出しを開け、中から折りたたみ式のエコバッグを取り出し、英雄氏に差し出す。 「何ですか?」 英雄氏はキョトンとした顔でエコバッグを見入る。 東雲がバッグを広げると彼はオオッ~!と驚きな歓声を上げた。 「これ、あげるからバケツは止めて下さいね。トイレ用だし」 東雲の視線の先にある青いバケツはトイレ用と書かれてあった。 「ちゃんと洗うたけん綺麗かとですよ。ばってん、このバッグも貰ろうて良かとなら使わせてもらいます」 東雲がどうぞと言うと英雄氏は嬉しそうにエコバッグに荷物を詰め替えた。  「しめしめさんは良か人ですね」 英雄氏の言葉に東雲はまたか…と眉間にシワを寄せる。 「しめしめじゃなく、しののめです!」 言い間違いを嫌そうな顔で正した。

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